■□ 死 角 □■
黒い同窓会

■黒い同窓会


「陽菜紀の旦那浮気してたらしいよ」

どこからともなく、まるで蝋燭の炎を灯すような小さな炎は、やがて悪意にまみれて大きくなっていった。


「マジ?陽菜紀はそのこと知ってるの?」
「知ってたに違いないでしょ。あの性格なら」
「え、でもSNSでは旦那ちゃんとラブラブみたいなこと書いてあったよ」
「嘘に決まってるじゃない。リア充してます、みたいに見せかけてただけじゃない」
「フォロワー稼ぎ?」
「ホント、あざとい女」

大きくなった炎はやがて周りを巻きこんで
炎上する。

雑多な喧騒の中、ひそひそ、ざわざわ、その噂はまことしやかに聞こえてきた。

耳を塞ぎたくなった。噂をしているのは陽菜紀とさほど仲良くなかったグループと、私や陽菜紀と同じグループの女子……つまりはほとんどの女の子たちだ。

優ちゃん
沙耶香ちゃん
好未ちゃん
麻美ちゃん

みんな陽菜紀と同じグループだったのに、何でそんな……亡くなった人のこと悪く言えるの?

それは「佐竹(さたけ) 陽菜紀に献杯(けんぱい)」と誰からともなく音頭が取られ、アルコールの入ったグラスを合わせてから間もなくのことだった。
佐竹、と言うのは陽菜紀の旧姓だ。

陽菜紀のお通夜が開かれている斎場とそれ程離れていない、全国展開のチェーン店の安っぽい居酒屋に収まることになった私たち。集まった人数は二十人弱。急場にこの大人数ときて、入れる居酒屋はたかが知れていた。

陽菜紀が生きていて、私と飲みに行くことになったら彼女が絶対選ばない居酒屋。

陽菜紀は色々な意味でハイクラスだった。元々彼女の実家も資産家のお金持ちだったから陽菜紀は昔っから、ことお金に関してはお嬢様育ちのお嬢様気質。それは幼稚園から命を絶たれるまで一貫して変わらなかった。

どうせ割り勘でしょ?給料日前だし、私はもっと安い方がいいよ。

何度も“女子会”と呈した二人だけの飲み会の選ばれたお店に苦言を申し出たのを覚えている。そう言うと陽菜紀は「じゃぁここは私の奢り。灯理には二次会でコーヒー代だして貰うからいいよ~」と気軽に言っていたが、それはご主人から貰っていたお小遣いから出ているのを知っていた。
そのことを知ってると流石に悪いし、もちろん支払は毎回折半にしてたけど。


あのご主人が―――浮気……?
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