■□ 死 角 □■
別れの刻
■別れの刻
翌日の告別式は10時から開催される予定だ。
昨日は結局一睡もできなかった。ノリの悪いファンデーションを何とか重ね、充血した目に何度も目薬をさした。久しぶりの徹夜でちょっとばかり頭がぼんやりする。
私は受付時間内に向かうと、友人知人席の前の方に沙耶ちゃんの後ろ姿を見つけてちょっとほっとした。彼女もすぐに私を見つけてくれて「あ、灯理ちゃん」と声を掛けてくれて、隣に座るよう促され、自然その場に腰を下ろした。
私は会場内をキョロキョロと見渡した。同級生は私たち以外来ていない。
ついでに言うと、刑事さんたちも来ていない。そのことにちょっとほっとする。
「みんな薄情なもんだよね。麻美も好未も誘ったけどこれないって。優子に至っては昨日散々親友面しておいて、って感じだよね。とりあえずお通夜だけ顔出しておけば顔が立つって思ってるのかな」と沙耶ちゃんが小声でひそっと私に語りかけてきた。
言葉に棘がある。私はそれに苦笑いで「みんな忙しいんじゃない」と何とか答えた。でも本当は沙耶ちゃんの言ったことと同じことを思った。
「でも灯理ちゃんは来ると思った。有休?」と沙耶ちゃんが言い、どこか満足そうにちょっと笑いかけてきて、私もそれにぎこちなく笑い返した。私も……沙耶ちゃんが来てくれて良かった、と思ってる。
「うん有休。私なんて抜けてもそれ程痛手じゃないけど、沙耶ちゃんは沙耶ちゃんが居ないと困っちゃう人たくさん居るんじゃないの?大丈夫?」そう聞くと
「大丈夫、大丈夫」と沙耶ちゃんは軽い調子で言った。「私さ、このお葬式が終わって……陽菜紀の四十九日の法要が行われるころ、きっと海の向こう側だと思う」
昨日言ってた……スウェーデン支所に異動になるとか。
「陽菜紀とは正直それ程親しくもなかったけど、やっぱ友達だったじゃん?遠くに行く前に、最後にちゃんとお別れ言いたかったんだ」
沙耶ちゃん―――……
「陽菜紀もさ、やっぱ本当に自分の死を悲しんでくれる人に送られたいよね」
「うん、そうだね……」と答えていると、その言葉に
「あれ?昨日はどうも」と聞き覚えのある男の人の声で振り返ると、昨日と同じ喪服のスーツ姿の
鈴原さん
を見て思わず目を開いた。