■□ 死 角 □■
事実は小説より奇なり
■事実は小説より奇なり。
その後、私は喜多町にある実家に帰った。帰るなり母親が玄関口で待ち構えていて、
「ただいま」を言う前に
「ちょっと待って!」と言い、私に塩を撒く。やや乱暴なその動作に思いのほかたくさんの塩が喪服に掛かって、私は鬱陶しそうにその白く輝く粉を払った。
靴を脱ぐと踵の負担がだいぶ軽減されてため息が出る。玄関に上がると母がすかさず
「陽菜紀ちゃんのお葬式、どうだった?」と聞いてきた。
「どうもこうも普通のお葬式だよ。まぁちょっと豪華な感じはしたけど。って言うか気になるんなら行けば良かったでしょう?かりにもご近所さんでお友達の娘なんだし」薄情だよ、と言う言葉は仕舞いこんだ。
半ば呆れて母を睨むと、母は口を尖らせて私を睨み返し
「だって、敦子さんが『来ないで欲しい』って言ったのよ」と口の中でブツブツ。敦子さん、と言うのは陽菜紀のおばちゃんだ。
「何で?」
「さぁ。あんまりボロボロの自分を見られたくなかったんじゃないかしら。来ないでって言われたら流石にノコノコ行けないでしょ」
「まぁそうだけど。でもおばちゃん私にはそんな風じゃなかったよ」
「あんたたちは娘同士だしね。私はほら、敦子さんと歳も近いし。同情されるのが嫌だったんじゃないかしら。ほら、昔から妙な見栄みたいなある人だったから」と母は敦子おばちゃんのことを今回ばかりはあまり良く思ってないみたいだったけれど、やはり同情する面はあるのだろう
「敦子さん…事件後に会ったのだけれど、びっくりするぐらい痩せちゃって気の毒だったわ。昔から仲が良い母娘だったじゃない?だから余計……」
そう付け加えて顔を俯かせる。
妙な見栄……と言うのは陽菜紀にもあった。だから今回敦子おばちゃんが母にそう言ったのは少し想像すれば分かった筈。やはり血なのだろうか。
リビングに行くとソファのローテーブルの上に来客用の湯呑茶碗が二客、置かれていた。
「誰か来たの?」喪服の上着を脱ぎながら聞くと
「あ、そうそう。ついさっき、あんたが帰ってくるちょっと前、刑事さんが二人来てたのよ!」お母さんは思い出して手をぽんと打ち、
刑事さん―――……
「それって、大柄で髭の生えた刑事さん!」と思わず勢い込むと
「ええ……確かソダ……とか言ったかしらね」
曽田刑事さん―――……私の実家まで……
一体何しに―――…?