【SS投稿中】殿下、私を解放していただきます。〜 妹を選んだ王太子に婚約破棄された有能令嬢の、その後の人生 〜
11. 乱れる心
「ハートネル侯爵令嬢。なぜ私が突然あなたとの面会を希望したのか、きっと疑問に思っておられるだろう。我々はこうして直接会って言葉を交わしたことは、一度もない」
「……はい」
核心に触れそうだと感じ、私は居住まいを正して公爵の目を見た。……見慣れてくると、とても美しい色の瞳だ。第一印象の冷たさは、私の中ですでにすっかり消えてしまっていたけれど、その圧倒的オーラによる威圧感は健在だった。
「実は私は以前から、あなたに興味を持っていた」
「は……、……え?」
サラリと言われたその言葉に驚く。セルウィン公爵は私を見つめながら話しはじめた。
「あなたは社交界では有名なご令嬢だ。私は社交の場に出ることはほとんどないが、あなたの話は近しい者たちから何度も聞いていた。侯爵家の長女であり、王太子の婚約者でありながら、屋敷や王城での机上の勉強のみに留まらず、積極的に国外に出ては多くの人物と関わりを持っている。各地で新たな知識を得、精力的に活動している実に珍しいご令嬢だと。あなたのような身分の方でそのような女性の話は、これまで聞いたことがない」
「そんな……買いかぶりすぎですわ、公爵閣下。噂話が一人歩きしておりましたのね。私は、ただ……」
「……ただ?」
言いづらくて、ほんの少し逡巡する。けれど、私の話を聞いてこうしてわざわざ領地から出向いてきてくださった方だ。ここでごまかしたって仕方がない。幻滅されようがどう思われようが、今後のためにもきちんと本当のことを伝えておいた方がいい。
そう思った私は、本心を吐露した。
「……私はただ、フルヴィオ王太子殿下の……陛下のために、近隣諸国の重鎮とのパイプを密に繋いでおこうと思ったまでです。このようなことを申し上げるのは好ましくないのでしょうが……、陛下は、あまり近隣諸国の情勢や、言語、文化などに精通しておられません。そばでお支えする身として、私が陛下の苦手な分野をカバーしなければという強い使命感があっただけのことです。王太子殿下の婚約者という立場でなければ、私だって普通の貴族家の令嬢たちのように国内に留まり、淑女としての教養を学ぶに留まっていたと思いますわ」
「充分に素晴らしいことだ。あなたの行動力はすごい。私はこれまで独身を貫いてきたし、自分の結婚には興味がなかった。家督は身内の中の優秀な者に継がせればいいと思っていた。……だが、あの噂のハートネル侯爵令嬢と王家との縁談が白紙になり、代わりに妹君が嫁ぐことになったと知り、無性に会いたいと思ったんだ。あなたに会い、あなたの考えていることを、直接聞きたいと思った。……興味深い女性だ、あなたは」
「……光栄ですわ」
一体私はどうしてしまったのだろう。この十以上も年上の公爵閣下に真正面から見つめられ、みっともなくモジモジしながら目を泳がせそうになってしまう。胸の鼓動も、少しも落ち着いてくれない。
逆にセルウィン公爵は、佇まいも声色も、とても落ち着いていた。頼り甲斐のある大人の男性とは、こういう方のことをいうのだろう。
フルヴィオ様とも父とも、全然違う。自分が今、この人からどう見られているのかが気になってしょうがない。こんな気持ちは初めてだった。
私は小さく咳払いをし、背筋に力を入れ、静かに深く息を吸った。
「……もう少し、あなたとこうして話をさせてもらってもいいだろうか」
「は、はい。もちろんですわ、閣下」
平常心を取り戻そうと必死なのに、また声が震えてしまい、私の頬に熱が集まった。
セルウィン公爵閣下は私に様々な質問をした。主に、これから私がどのように生きようと思っているのかについて。彼が聞き上手だからだろうか。私の妙な緊張も徐々に薄れ、私は嘘偽りなく自分の考えや未来への展望について話した。公爵閣下は、私との縁談を望んでおられるのかもしれない。それならば、私の本心を話してしまえば失望させてしまうかもしれない。そんな思いが頭の片隅にあったけれど、それでも私は、この人に自分の心を隠さなかった。
「王太子殿下のお役に立つために、というのは本心でしたが、実際に近隣諸国に赴いて各国の方々と交流を持ち、この目で文化を学ぶことはとても楽しかったのです。我が国に取り入れることができれば素敵だなと思うようなものが、各国にはたくさんございました。こうして自由の身となった今、これからは陛下や王家のためではなく、自分自身のために、そして我が国の発展のために私にできることを模索したいと考えております」
「なるほど。私も近隣の国には何度も足を運んだことがあるが、あなたの言いたいことはよく分かる。それぞれの国に、それぞれの魅力がある。良い部分は積極的に取り入れ、補い合いたいものだ」
「ええ、本当に」
メイドは二度お茶を淹れ足し、公爵閣下と私は長い時間熱く語り合った。まさかこんなに話が弾むことになるなんて。公爵と私は考え方がすごく似ているようだった。
時間が経つのも、ついには初対面だということも忘れて、私はセルウィン公爵閣下とのお喋りを夢中になって楽しんだ。
「……はい」
核心に触れそうだと感じ、私は居住まいを正して公爵の目を見た。……見慣れてくると、とても美しい色の瞳だ。第一印象の冷たさは、私の中ですでにすっかり消えてしまっていたけれど、その圧倒的オーラによる威圧感は健在だった。
「実は私は以前から、あなたに興味を持っていた」
「は……、……え?」
サラリと言われたその言葉に驚く。セルウィン公爵は私を見つめながら話しはじめた。
「あなたは社交界では有名なご令嬢だ。私は社交の場に出ることはほとんどないが、あなたの話は近しい者たちから何度も聞いていた。侯爵家の長女であり、王太子の婚約者でありながら、屋敷や王城での机上の勉強のみに留まらず、積極的に国外に出ては多くの人物と関わりを持っている。各地で新たな知識を得、精力的に活動している実に珍しいご令嬢だと。あなたのような身分の方でそのような女性の話は、これまで聞いたことがない」
「そんな……買いかぶりすぎですわ、公爵閣下。噂話が一人歩きしておりましたのね。私は、ただ……」
「……ただ?」
言いづらくて、ほんの少し逡巡する。けれど、私の話を聞いてこうしてわざわざ領地から出向いてきてくださった方だ。ここでごまかしたって仕方がない。幻滅されようがどう思われようが、今後のためにもきちんと本当のことを伝えておいた方がいい。
そう思った私は、本心を吐露した。
「……私はただ、フルヴィオ王太子殿下の……陛下のために、近隣諸国の重鎮とのパイプを密に繋いでおこうと思ったまでです。このようなことを申し上げるのは好ましくないのでしょうが……、陛下は、あまり近隣諸国の情勢や、言語、文化などに精通しておられません。そばでお支えする身として、私が陛下の苦手な分野をカバーしなければという強い使命感があっただけのことです。王太子殿下の婚約者という立場でなければ、私だって普通の貴族家の令嬢たちのように国内に留まり、淑女としての教養を学ぶに留まっていたと思いますわ」
「充分に素晴らしいことだ。あなたの行動力はすごい。私はこれまで独身を貫いてきたし、自分の結婚には興味がなかった。家督は身内の中の優秀な者に継がせればいいと思っていた。……だが、あの噂のハートネル侯爵令嬢と王家との縁談が白紙になり、代わりに妹君が嫁ぐことになったと知り、無性に会いたいと思ったんだ。あなたに会い、あなたの考えていることを、直接聞きたいと思った。……興味深い女性だ、あなたは」
「……光栄ですわ」
一体私はどうしてしまったのだろう。この十以上も年上の公爵閣下に真正面から見つめられ、みっともなくモジモジしながら目を泳がせそうになってしまう。胸の鼓動も、少しも落ち着いてくれない。
逆にセルウィン公爵は、佇まいも声色も、とても落ち着いていた。頼り甲斐のある大人の男性とは、こういう方のことをいうのだろう。
フルヴィオ様とも父とも、全然違う。自分が今、この人からどう見られているのかが気になってしょうがない。こんな気持ちは初めてだった。
私は小さく咳払いをし、背筋に力を入れ、静かに深く息を吸った。
「……もう少し、あなたとこうして話をさせてもらってもいいだろうか」
「は、はい。もちろんですわ、閣下」
平常心を取り戻そうと必死なのに、また声が震えてしまい、私の頬に熱が集まった。
セルウィン公爵閣下は私に様々な質問をした。主に、これから私がどのように生きようと思っているのかについて。彼が聞き上手だからだろうか。私の妙な緊張も徐々に薄れ、私は嘘偽りなく自分の考えや未来への展望について話した。公爵閣下は、私との縁談を望んでおられるのかもしれない。それならば、私の本心を話してしまえば失望させてしまうかもしれない。そんな思いが頭の片隅にあったけれど、それでも私は、この人に自分の心を隠さなかった。
「王太子殿下のお役に立つために、というのは本心でしたが、実際に近隣諸国に赴いて各国の方々と交流を持ち、この目で文化を学ぶことはとても楽しかったのです。我が国に取り入れることができれば素敵だなと思うようなものが、各国にはたくさんございました。こうして自由の身となった今、これからは陛下や王家のためではなく、自分自身のために、そして我が国の発展のために私にできることを模索したいと考えております」
「なるほど。私も近隣の国には何度も足を運んだことがあるが、あなたの言いたいことはよく分かる。それぞれの国に、それぞれの魅力がある。良い部分は積極的に取り入れ、補い合いたいものだ」
「ええ、本当に」
メイドは二度お茶を淹れ足し、公爵閣下と私は長い時間熱く語り合った。まさかこんなに話が弾むことになるなんて。公爵と私は考え方がすごく似ているようだった。
時間が経つのも、ついには初対面だということも忘れて、私はセルウィン公爵閣下とのお喋りを夢中になって楽しんだ。