【SS投稿中】殿下、私を解放していただきます。〜 妹を選んだ王太子に婚約破棄された有能令嬢の、その後の人生 〜
29. やっぱり大嫌い(※sideキャロル)
そう思って意気揚々と臨んだ、結婚式当日。
大聖堂での式は良かったわ。あたしが細部にまで要望を出して、短時間で何度も作り替えさせたウェディングドレスは最高に可愛らしいものに仕上がっていたし、国中のお偉いさんたちが一斉にあたしに注目しているのも最高に気分が良かった。外国からのお客様たちも、すごい美人が王妃になったものだときっと驚いたと思うわ。皆真剣な表情であたしのことを見つめていたから、目一杯愛想を振りまいてやったわ。大サービスよ。
でもダンスパーティー辺りから、なんだかだんだんと嫌な気持ちになってきた。最初は良かったのよ。フルヴィオ様があたしを新王妃として紹介して、全員の注目と拍手を一身に浴びて、ファーストダンスを踊って。けれどその後、国内外の高位貴族たちのダンスタイムになると、あいつがまた目立ってきた。
大きくてたくましいセルウィン公爵はすごく格好良くて、そんな彼にエスコートされてフロアの中央に進み出てきたエリッサは、その瞬間すでに会場中の視線を浴びていた。思わず歯ぎしりしたくなるほどに美しく仕上がっているその姿。エリッサの着ているドレスは、これまで見たことのないものだった。公爵からのプレゼントなのかしら。ベージュを基調としながらも、ブルーのグラデーションカラーが繊細に取り入れられたそのデザインは珍しくて綺麗だったし、何ヶ所かに施された水色の刺繍は、明らかに公爵の瞳の色を意識していた。その上、見るからに高価そうな同系色のジュエリーたち……。悔しいけれど、彼女は途方もなく美しかった。公爵は公爵で、数ヶ所に控えめな金色の刺繍が入った衣装に身を包んでいる。エリッサの瞳の色ね。あたしも同じ色だけど。
ダンスの曲が流れると、何組もの貴族たちが一斉に踊りはじめる。けれどそんな中で、周囲で見守っている全員の視線がエリッサと公爵の動きを追っていた。あたしはダンスがあまり得意じゃないから、踊りやすい簡単な曲にしてもらっていたけれど、今エリッサたちが踊っているのはステップもリズムも難しい。それでもエリッサは「何てことないわ」みたいなすました顔して、すごく優雅に踊ってる。年配の人たちは感心したように見つめているし、令嬢たちも露骨に目を輝かせて何やらヒソヒソと話しながら見ている。若い男性たちは、まるで物語に出てくる魅了の魔法にでもかかったかのようなうっとりとした表情で、エリッサの動きを追っている。
イライラしてきた。もういいから、さっさと曲を終わらせなさいよ。主役はこのあたしなのよ!?
晩餐会の席はなおさら最悪だったわ。外国からの客たちが帝国語で挨拶してくるからずっと通訳を付けていたんだけど、セルウィン前公爵夫妻が挨拶に来た時に、なんか腹の立つ嫌味を言ってきたのよ。「即刻王妃陛下を徹底的に教育し、またご自身も近日中に帝国語くらいはマスターされよ。このような見苦しい真似は二度となさるな」ですって! はぁ!? 何よその言い方!! 臣下のくせに、国王夫妻に向かって偉そうに!!
あとでフルヴィオ様に、あの人何なの? 何であんなに偉そうなの? って聞いたら「セルウィン前公爵は亡き父の実弟で、国政に精通しておられる。今でも政界、社交界で絶大な発言権をお持ちの方だ」って泣きそうな顔をして言ってたけど。そんなこと知ったことじゃないわ。立場はあくまでこちらが上でしょう? あの爺大嫌いになったわ! 偉そうに!!
そのすぐ後に挨拶に来たのが、今の腹立つ爺の息子でもあり、後を継いだセルウィン公爵……と、彼の婚約者の座に納まったエリッサ。本当に、上手くやったものね。フルヴィオ様に振られて王家に嫁ぐことができなくなって、さぞやショックを受けているだろうと思っていたのに……。婚約破棄から間髪容れずに、公爵の方から求婚してきたっていうじゃないの。信じられないわ。悪運が強いんだから。
間近で見たセルウィン公爵は、すごく男らしくて素敵だった。遠目には怖そうに見えていたけれど、近くで見ると整った顔立ちをしていらっしゃるし、歴戦の猛者って感じの迫力とオーラがあったわ。頬の大きな傷さえも格好良い……。繊細な美男子って雰囲気のフルヴィオ様とは全然違う魅力がある。こっちもいいわ。エリッサが予定どおりフルヴィオ様の元に嫁いでいたら、この人きっとあたしを欲しがって父に婚約の打診をしてきていたのでしょうね。同じハートネル侯爵家の娘だもの。ふふ。向こうも間近で見るあたしの愛らしさと類まれなるこの美貌に、ときめいているんじゃないかしら。そう思って一際可愛らしく挨拶をしてあげたんだけど、公爵は冷めた態度でさっさと行ってしまった。……何よあれ。素直じゃないのね。
その後も長くて面倒くさい貴族たちの挨拶が続いたけれど、これを全部受けるのが王妃の役目ですものね。我慢して笑みを保ち続けたわ。
ようやく一通りの挨拶が終わって落ち着いたから、あたしは残りのお料理を堪能した。今夜はお食事を楽しむ時間などはございませんのでお覚悟くださいませ、なんて教育係たちには言われていたけど、挨拶の前後は案外暇なのね。前菜からメインのお肉までたっぷりと堪能してワインも味わったし。このケーキも美味しいわぁ。
しばらくデザートを楽しんだあたしはふと顔を上げ、列席者たちに目を向けた。
すると、そこには到底受け入れがたい光景があった。
エリッサとセルウィン公爵の周りに、大勢の人だかりが出来ていたのよ。二人は幾重にも連なる人々の群れの中央にいて、目を輝かせながら我先にと挨拶をしたがる貴族連中に応えていた。驚いて開いた口が塞がらなかったわ。何をしているのあの列席者たち!! 今日の主役はこのあたしなのよ!? 何でこっちに来ないでエリッサの方にばかり行くわけ!? 失礼だわ!!
腹が立って腹が立って、あたしは隣で同じようにエリッサの方を見ているフルヴィオ様に抗議した。
「フルヴィオ様! あれ何なの!? 何でセルウィン公爵とエリッサの周りにばかり、あんなに貴族たちが集まってるわけ!? おかしいじゃない! 止めさせてよ!」
するとフルヴィオ様は情けない顔でゆっくりとこちらを振り返り言った。
「そんなことはできない……。列席者たちは皆俺たちにちゃんと挨拶に来たし、その後の歓談は自由だ」
「な……っ!」
何よそれ。腹立つ。本当に腹が立つわ! こんな日にまで、わざわざ注目を浴びないと気が済まないわけ!? 実の妹の晴れ舞台だってことが分からないほど、あいつ馬鹿じゃないはずよ。わざとやってるんだわ。きっと事前に何か貴族連中に言っておいたのよ。自分たちに注目が集まるような情報を。本当に嫌な女……。大っ嫌い!!
深夜になり、ようやく晩餐会がお開きになった。あたしは不機嫌なまま侍女たちにドレスを脱がせるよう命じ、八つ当たりしまくりながら湯浴みを手伝わせた。
そしてついに、夫婦の寝室に足を踏み入れた。
後からやって来たフルヴィオ様は、さすがに手慣れたものだった。閨教育はバッチリってわけね。あたしは初心な演技をするのにちょっと苦労したわ。だって学園に入学した当初はまさか、自分が王家に嫁ぐことになるだなんて思ってもいなかったんだもの。入学する少し前から、ちょっといけない遊びはしていたのよね。あ、もちろん、純潔は守っていたのよ。可愛がってくれる男性たちとの、ちょっとした秘密のスキンシップって感じ。それ以上はハメを外していなくて本当良かったわ。
事が済んで満足げなフルヴィオ様の腕の中で、あたしはついにずっと我慢していた本当の望みを口にした。
「ねーぇ、フルヴィオ様」
「……ん? 何だい? キャロル」
今にも夢の世界へ行っちゃいそうだったフルヴィオ様を現実に引っ張り戻して、あたしは耳元で甘く囁いた。
「あのね、お願いがあるの……」
大聖堂での式は良かったわ。あたしが細部にまで要望を出して、短時間で何度も作り替えさせたウェディングドレスは最高に可愛らしいものに仕上がっていたし、国中のお偉いさんたちが一斉にあたしに注目しているのも最高に気分が良かった。外国からのお客様たちも、すごい美人が王妃になったものだときっと驚いたと思うわ。皆真剣な表情であたしのことを見つめていたから、目一杯愛想を振りまいてやったわ。大サービスよ。
でもダンスパーティー辺りから、なんだかだんだんと嫌な気持ちになってきた。最初は良かったのよ。フルヴィオ様があたしを新王妃として紹介して、全員の注目と拍手を一身に浴びて、ファーストダンスを踊って。けれどその後、国内外の高位貴族たちのダンスタイムになると、あいつがまた目立ってきた。
大きくてたくましいセルウィン公爵はすごく格好良くて、そんな彼にエスコートされてフロアの中央に進み出てきたエリッサは、その瞬間すでに会場中の視線を浴びていた。思わず歯ぎしりしたくなるほどに美しく仕上がっているその姿。エリッサの着ているドレスは、これまで見たことのないものだった。公爵からのプレゼントなのかしら。ベージュを基調としながらも、ブルーのグラデーションカラーが繊細に取り入れられたそのデザインは珍しくて綺麗だったし、何ヶ所かに施された水色の刺繍は、明らかに公爵の瞳の色を意識していた。その上、見るからに高価そうな同系色のジュエリーたち……。悔しいけれど、彼女は途方もなく美しかった。公爵は公爵で、数ヶ所に控えめな金色の刺繍が入った衣装に身を包んでいる。エリッサの瞳の色ね。あたしも同じ色だけど。
ダンスの曲が流れると、何組もの貴族たちが一斉に踊りはじめる。けれどそんな中で、周囲で見守っている全員の視線がエリッサと公爵の動きを追っていた。あたしはダンスがあまり得意じゃないから、踊りやすい簡単な曲にしてもらっていたけれど、今エリッサたちが踊っているのはステップもリズムも難しい。それでもエリッサは「何てことないわ」みたいなすました顔して、すごく優雅に踊ってる。年配の人たちは感心したように見つめているし、令嬢たちも露骨に目を輝かせて何やらヒソヒソと話しながら見ている。若い男性たちは、まるで物語に出てくる魅了の魔法にでもかかったかのようなうっとりとした表情で、エリッサの動きを追っている。
イライラしてきた。もういいから、さっさと曲を終わらせなさいよ。主役はこのあたしなのよ!?
晩餐会の席はなおさら最悪だったわ。外国からの客たちが帝国語で挨拶してくるからずっと通訳を付けていたんだけど、セルウィン前公爵夫妻が挨拶に来た時に、なんか腹の立つ嫌味を言ってきたのよ。「即刻王妃陛下を徹底的に教育し、またご自身も近日中に帝国語くらいはマスターされよ。このような見苦しい真似は二度となさるな」ですって! はぁ!? 何よその言い方!! 臣下のくせに、国王夫妻に向かって偉そうに!!
あとでフルヴィオ様に、あの人何なの? 何であんなに偉そうなの? って聞いたら「セルウィン前公爵は亡き父の実弟で、国政に精通しておられる。今でも政界、社交界で絶大な発言権をお持ちの方だ」って泣きそうな顔をして言ってたけど。そんなこと知ったことじゃないわ。立場はあくまでこちらが上でしょう? あの爺大嫌いになったわ! 偉そうに!!
そのすぐ後に挨拶に来たのが、今の腹立つ爺の息子でもあり、後を継いだセルウィン公爵……と、彼の婚約者の座に納まったエリッサ。本当に、上手くやったものね。フルヴィオ様に振られて王家に嫁ぐことができなくなって、さぞやショックを受けているだろうと思っていたのに……。婚約破棄から間髪容れずに、公爵の方から求婚してきたっていうじゃないの。信じられないわ。悪運が強いんだから。
間近で見たセルウィン公爵は、すごく男らしくて素敵だった。遠目には怖そうに見えていたけれど、近くで見ると整った顔立ちをしていらっしゃるし、歴戦の猛者って感じの迫力とオーラがあったわ。頬の大きな傷さえも格好良い……。繊細な美男子って雰囲気のフルヴィオ様とは全然違う魅力がある。こっちもいいわ。エリッサが予定どおりフルヴィオ様の元に嫁いでいたら、この人きっとあたしを欲しがって父に婚約の打診をしてきていたのでしょうね。同じハートネル侯爵家の娘だもの。ふふ。向こうも間近で見るあたしの愛らしさと類まれなるこの美貌に、ときめいているんじゃないかしら。そう思って一際可愛らしく挨拶をしてあげたんだけど、公爵は冷めた態度でさっさと行ってしまった。……何よあれ。素直じゃないのね。
その後も長くて面倒くさい貴族たちの挨拶が続いたけれど、これを全部受けるのが王妃の役目ですものね。我慢して笑みを保ち続けたわ。
ようやく一通りの挨拶が終わって落ち着いたから、あたしは残りのお料理を堪能した。今夜はお食事を楽しむ時間などはございませんのでお覚悟くださいませ、なんて教育係たちには言われていたけど、挨拶の前後は案外暇なのね。前菜からメインのお肉までたっぷりと堪能してワインも味わったし。このケーキも美味しいわぁ。
しばらくデザートを楽しんだあたしはふと顔を上げ、列席者たちに目を向けた。
すると、そこには到底受け入れがたい光景があった。
エリッサとセルウィン公爵の周りに、大勢の人だかりが出来ていたのよ。二人は幾重にも連なる人々の群れの中央にいて、目を輝かせながら我先にと挨拶をしたがる貴族連中に応えていた。驚いて開いた口が塞がらなかったわ。何をしているのあの列席者たち!! 今日の主役はこのあたしなのよ!? 何でこっちに来ないでエリッサの方にばかり行くわけ!? 失礼だわ!!
腹が立って腹が立って、あたしは隣で同じようにエリッサの方を見ているフルヴィオ様に抗議した。
「フルヴィオ様! あれ何なの!? 何でセルウィン公爵とエリッサの周りにばかり、あんなに貴族たちが集まってるわけ!? おかしいじゃない! 止めさせてよ!」
するとフルヴィオ様は情けない顔でゆっくりとこちらを振り返り言った。
「そんなことはできない……。列席者たちは皆俺たちにちゃんと挨拶に来たし、その後の歓談は自由だ」
「な……っ!」
何よそれ。腹立つ。本当に腹が立つわ! こんな日にまで、わざわざ注目を浴びないと気が済まないわけ!? 実の妹の晴れ舞台だってことが分からないほど、あいつ馬鹿じゃないはずよ。わざとやってるんだわ。きっと事前に何か貴族連中に言っておいたのよ。自分たちに注目が集まるような情報を。本当に嫌な女……。大っ嫌い!!
深夜になり、ようやく晩餐会がお開きになった。あたしは不機嫌なまま侍女たちにドレスを脱がせるよう命じ、八つ当たりしまくりながら湯浴みを手伝わせた。
そしてついに、夫婦の寝室に足を踏み入れた。
後からやって来たフルヴィオ様は、さすがに手慣れたものだった。閨教育はバッチリってわけね。あたしは初心な演技をするのにちょっと苦労したわ。だって学園に入学した当初はまさか、自分が王家に嫁ぐことになるだなんて思ってもいなかったんだもの。入学する少し前から、ちょっといけない遊びはしていたのよね。あ、もちろん、純潔は守っていたのよ。可愛がってくれる男性たちとの、ちょっとした秘密のスキンシップって感じ。それ以上はハメを外していなくて本当良かったわ。
事が済んで満足げなフルヴィオ様の腕の中で、あたしはついにずっと我慢していた本当の望みを口にした。
「ねーぇ、フルヴィオ様」
「……ん? 何だい? キャロル」
今にも夢の世界へ行っちゃいそうだったフルヴィオ様を現実に引っ張り戻して、あたしは耳元で甘く囁いた。
「あのね、お願いがあるの……」