【SS投稿中】殿下、私を解放していただきます。〜 妹を選んだ王太子に婚約破棄された有能令嬢の、その後の人生 〜
36.オリアナ嬢の告白
その後帰路につき、また二日ほどかけて王都のハートネル侯爵家タウンハウスまで私を送ってくださったクロード様は、領地へと戻っていった。
私はしばらく屋敷に滞在し、セザリア王国のカーデン伯爵家との書簡のやり取りを繰り返し、また同時にランカスター伯爵夫人とも連絡を取り合って、両家の橋渡しに奔走した。
やがてカーデン伯爵家から色よい返事をいただけたことをきっかけに、ランカスター伯爵夫人と娘のオリアナ嬢が私の元へと挨拶にやってきてくれた。
「信頼の置けるエリッサ様が我が家やオリアナのことを紹介してくださったおかげで、あちら様も娘の後見を前向きに検討してくださっているようで。主人も私も安心しておりますの。尽力いただき本当にありがとうございますわ、エリッサ様」
応接間で対面したランカスター伯爵夫人はそう言うと、私に深々と頭を下げた。
「とんでもございませんわ。オリアナ嬢が優秀でしっかりとしたご令嬢であることは伝えてありますから、先方も同じく安心なさっておられます。基本的には学生寮に入って生活することや、私がセザリア王国を訪問した際にはカーデン伯爵家を訪れ状況をこまめに把握し、オリアナ嬢のご様子を確認することも書き添えてございますし。お役に立てますなら、私も嬉しいですわ」
「本当に、何から何まで……。主人もエリッサ様には頭が上がらないと申しておりましたわ」
夫人はそう言って何度も感謝の言葉を述べられていた。両家の対面も近日中に叶いそうな様子だったので、私はさりげなくカーデン伯爵領の特産品や海鮮加工品の話を出し、交易に繋がればいいですねと伝えてみた。
その後、夫人が私の母と挨拶をしている間に、私はオリアナ嬢を連れて庭園へと足を運んだ。このタウンハウスの庭はそんなに大きなものではないけれど、季節の花々は常に整えてある。お喋りしながら少し散歩するにはうってつけなのだ。
オリアナ嬢は改めて私に礼を言い、私は何かあればいつでも相談してほしいと伝えた。
しばらくオリアナ嬢の勉強の進捗や日常生活について話を聞いていると、ふいに彼女が私に言った。
「エリッサ様。実は私の兄は、エリッサ様にとても強く憧れておりましたのよ」
「……え? アルヴィン様が……?」
その突然の告白に、私の脳内にアルヴィン・ランカスター伯爵令息のお顔がよぎる。オリアナ嬢よりも茶味の強い赤毛に、優しいヘーゼルの瞳。長身で温和な同級生の彼とは、何度か言葉を交わした程度の仲だ。
オリアナ嬢はふふ、と声に出して笑うと、いたずらっ子のように肩をすくめた。
「ええ。兄の秘めた想いだったようですが。エリッサ様は当時王太子殿下のご婚約者であらせられたし、想いの丈を伝える機会はなかったようです。学園に通っていた頃は、よくエリッサ様のことを両親や私の前で話していましたのよ。それで私も、エリッサ様のことを意識するようになったんです」
「まぁ、そんな……。本当だとすれば、大変光栄なことだわ」
「本当ですのよ」
オリアナ嬢は目をキラキラと輝かせている。
「兄は学園の同級生の話をいろいろとしていましたけれど、エリッサ様のことを話す時だけは、雰囲気が全然違いましたわ。優しい顔をして、どこか切なげで……それでいてとても嬉しそうに、大切な思い出の箱をそっと開くように話しますの。今日ハートネル侯爵令嬢とこんな言葉を交わしただとか、そんな日常の些細なことを。ふふ、分かりやすい人ですわ」
何と答えていいか分からず、私は曖昧に微笑んでみた。妹君の勘違いということもあるだろうけれど……本当にそうだとしても、私には何もできることはなくて。申し訳ないような、ほんのり気まずいような、妙な気持ちだ。
「そしてエリッサ様は今では、王国一の貴族家のご当主に見初められたお方……。あなた様への募る想いを兄が伝える機会は最後までなかったようなので、私がこうしてバラしちゃいました。実らなかった兄の片想いの供養ですわ。おせっかいですけど。ふふ」
「ま、オリアナさんったら……。ランカスター伯爵令息は本当に素敵な殿方ですわ。見目も良く、才知溢れる上に、王国騎士団の一員として務めてもおられる。引く手数多でしょう」
そんな会話を交わしながら、私は懐かしい同級生の顔を思い出していたのだった。
私はしばらく屋敷に滞在し、セザリア王国のカーデン伯爵家との書簡のやり取りを繰り返し、また同時にランカスター伯爵夫人とも連絡を取り合って、両家の橋渡しに奔走した。
やがてカーデン伯爵家から色よい返事をいただけたことをきっかけに、ランカスター伯爵夫人と娘のオリアナ嬢が私の元へと挨拶にやってきてくれた。
「信頼の置けるエリッサ様が我が家やオリアナのことを紹介してくださったおかげで、あちら様も娘の後見を前向きに検討してくださっているようで。主人も私も安心しておりますの。尽力いただき本当にありがとうございますわ、エリッサ様」
応接間で対面したランカスター伯爵夫人はそう言うと、私に深々と頭を下げた。
「とんでもございませんわ。オリアナ嬢が優秀でしっかりとしたご令嬢であることは伝えてありますから、先方も同じく安心なさっておられます。基本的には学生寮に入って生活することや、私がセザリア王国を訪問した際にはカーデン伯爵家を訪れ状況をこまめに把握し、オリアナ嬢のご様子を確認することも書き添えてございますし。お役に立てますなら、私も嬉しいですわ」
「本当に、何から何まで……。主人もエリッサ様には頭が上がらないと申しておりましたわ」
夫人はそう言って何度も感謝の言葉を述べられていた。両家の対面も近日中に叶いそうな様子だったので、私はさりげなくカーデン伯爵領の特産品や海鮮加工品の話を出し、交易に繋がればいいですねと伝えてみた。
その後、夫人が私の母と挨拶をしている間に、私はオリアナ嬢を連れて庭園へと足を運んだ。このタウンハウスの庭はそんなに大きなものではないけれど、季節の花々は常に整えてある。お喋りしながら少し散歩するにはうってつけなのだ。
オリアナ嬢は改めて私に礼を言い、私は何かあればいつでも相談してほしいと伝えた。
しばらくオリアナ嬢の勉強の進捗や日常生活について話を聞いていると、ふいに彼女が私に言った。
「エリッサ様。実は私の兄は、エリッサ様にとても強く憧れておりましたのよ」
「……え? アルヴィン様が……?」
その突然の告白に、私の脳内にアルヴィン・ランカスター伯爵令息のお顔がよぎる。オリアナ嬢よりも茶味の強い赤毛に、優しいヘーゼルの瞳。長身で温和な同級生の彼とは、何度か言葉を交わした程度の仲だ。
オリアナ嬢はふふ、と声に出して笑うと、いたずらっ子のように肩をすくめた。
「ええ。兄の秘めた想いだったようですが。エリッサ様は当時王太子殿下のご婚約者であらせられたし、想いの丈を伝える機会はなかったようです。学園に通っていた頃は、よくエリッサ様のことを両親や私の前で話していましたのよ。それで私も、エリッサ様のことを意識するようになったんです」
「まぁ、そんな……。本当だとすれば、大変光栄なことだわ」
「本当ですのよ」
オリアナ嬢は目をキラキラと輝かせている。
「兄は学園の同級生の話をいろいろとしていましたけれど、エリッサ様のことを話す時だけは、雰囲気が全然違いましたわ。優しい顔をして、どこか切なげで……それでいてとても嬉しそうに、大切な思い出の箱をそっと開くように話しますの。今日ハートネル侯爵令嬢とこんな言葉を交わしただとか、そんな日常の些細なことを。ふふ、分かりやすい人ですわ」
何と答えていいか分からず、私は曖昧に微笑んでみた。妹君の勘違いということもあるだろうけれど……本当にそうだとしても、私には何もできることはなくて。申し訳ないような、ほんのり気まずいような、妙な気持ちだ。
「そしてエリッサ様は今では、王国一の貴族家のご当主に見初められたお方……。あなた様への募る想いを兄が伝える機会は最後までなかったようなので、私がこうしてバラしちゃいました。実らなかった兄の片想いの供養ですわ。おせっかいですけど。ふふ」
「ま、オリアナさんったら……。ランカスター伯爵令息は本当に素敵な殿方ですわ。見目も良く、才知溢れる上に、王国騎士団の一員として務めてもおられる。引く手数多でしょう」
そんな会話を交わしながら、私は懐かしい同級生の顔を思い出していたのだった。