【SS投稿中】殿下、私を解放していただきます。〜 妹を選んだ王太子に婚約破棄された有能令嬢の、その後の人生 〜
48. 伝え合う想い
慌てて帰国してからの三ヶ月間、クロード様とお会いする機会は一度もなかった。それというのも、セルウィン公爵領の南側にある領地で大規模な豪雨災害が起こったからだ。河川が氾濫し、崖や山が崩れいくつかの村が巻き込まれ、作物は大部分が駄目になったようだ。クロード様はその地の領主から助けを求められ、支援物資や人を送り、自身も現地へ駆けつけ奔走したりと、結婚式のギリギリまでとてもお忙しく働いておられた。
それでも衣装や宝石は当日までにきちんと仕上がり、結婚式の日、セルウィン公爵領内にある大聖堂には国内外から多くの人々が集まってくれた。貴族のみならず、中には他国の大臣や王族の方々までいる。前王妃のショーナ様も駆けつけてくださった。まるで王族の結婚式のような規模だ。クロード様はたしかに王家の血を引いておられるのだけど。
大聖堂の控え室に置かれていた私のドレスは、息を呑むほどに豪華なものだった。最高級の絹で作られた純白のマーメイドラインのドレスには、繊細かつ華やかな銀糸の刺繍がふんだんに施されていた。動くたびにキラキラと美しく輝き、思わず見惚れてしまう。髪は優雅に巻き上げられ、カラーレスのダイヤモンドで作られたティアラとネックレス、イヤリングを身に着けた。それぞれの中央にはアイスブルーダイヤモンドが鎮座している。クロード様の色だ。ミハをはじめ、身支度に携わってくれた侍女たち全員がため息を漏らしながら私のことを見つめている。
「これほどお美しい花嫁を見たことはございませんわ」
「本当に、目が眩むほどお美しゅうございます、エリッサ様」
口々にそんなことを言ってくれる侍女たちに照れながらお礼を言っていると、さっきまで穴があくほど私を見つめていたミハがそばにやって来た。
「エリッサお嬢様、セルウィン公爵閣下がお見えになりました」
「そ、そう。……お通しして」
途端に心臓の音が大きくなり、痛いほど激しく脈打ちはじめる。私の体は正直だ。
そして。
控え室に現れたクロード様の姿を見た途端、呼吸が止まった。真っ白な衣装に身を包みこちらへと歩み寄ってくる彼は、めまいがするほどに素敵だった。その純白の衣装には、私の瞳と同じ金色の刺繍が施されており、そのことが一層私の胸を滾らせた。
クロード様は薄く唇を開き、片時も目を逸らすことなく私を見つめながら、半ば呆然とした顔でゆっくりと私の元へとやって来た。……再会のご挨拶をしたいし、他にも伝えたいことはたくさんあるのだけれど、胸がいっぱいで言葉が出ない。
しばらく見つめ合った後、クロード様が私の頬にそっと片手で触れた。その部分が痺れたようにジンと熱くなる。
「……心臓が持たない」
「……えっ?」
クロード様は私を見つめたまま、噛みしめるように囁いた。
「これほど美しい人が、今日から私の妻になってくれるのか。私はこれまで女性に対して、こんな想いを抱いたこともなければ、こんな風に心をかき乱されたこともない」
「……ク、クロードさま……」
私の頬を親指で優しく擦るように撫でながら、クロード様が少し掠れた声で言う。
「こうして君と再会するたびに、自分の想いが強くなっているのを自覚してきたが……今日は別格だ。エリッサ、君が愛おしくてならない。生涯大切にする。……私についてきてくれるか」
「……っ、」
真摯な愛の告白に、胸がいっぱいになる。瞳を潤ませながら、私は震える声で彼の気持ちに応えた。
「もちろんでございます、クロード様。命の限り、おそばでお支えしてまいります。……わ、私も……、あなた様を、お慕い申し上げております……」
そんな言葉を伝えるだけで顔が真っ赤になり、今にも倒れてしまいそうだった。クロード様はこれまで見たことがないほど優しく嬉しそうに微笑み、私の手を取った。
「ありがとう。……行こうか」
会場には父でなく、クロード様と入場したいと希望したのは私だった。どちらでもいいとのことだったし、父も私には別に思い入れもないのだから構わないだろう。どうせなら好きな人と歩きたかった。
ただでさえ夢見心地になっている私は、大聖堂の広大さと集まってくれている人々の人数に圧倒され、ますます恍惚となった。緊張は最高潮だ。雲の上を歩いているようなおぼつかない感覚に、私は思わずクロード様の腕をしっかりと握りしめた。彼は私の方を見て少し微笑むと、もう片方の手を私の上に重ねてくれた。
互いの指に指輪をはめると、クロード様が私の頬に手を添え、優しく顎を持ち上げた。もう彼以外何も見えない。私は最後までその美しいアイスブルーの瞳を見つめ、ゆっくりと目を閉じた。
大聖堂に響き渡る割れんばかりの拍手の中で、人生で初めての口づけを交わす。クロード様は私の腰を片手でしっかりと抱き、その温かさと熱い想いを唇から伝えてくれた。
それでも衣装や宝石は当日までにきちんと仕上がり、結婚式の日、セルウィン公爵領内にある大聖堂には国内外から多くの人々が集まってくれた。貴族のみならず、中には他国の大臣や王族の方々までいる。前王妃のショーナ様も駆けつけてくださった。まるで王族の結婚式のような規模だ。クロード様はたしかに王家の血を引いておられるのだけど。
大聖堂の控え室に置かれていた私のドレスは、息を呑むほどに豪華なものだった。最高級の絹で作られた純白のマーメイドラインのドレスには、繊細かつ華やかな銀糸の刺繍がふんだんに施されていた。動くたびにキラキラと美しく輝き、思わず見惚れてしまう。髪は優雅に巻き上げられ、カラーレスのダイヤモンドで作られたティアラとネックレス、イヤリングを身に着けた。それぞれの中央にはアイスブルーダイヤモンドが鎮座している。クロード様の色だ。ミハをはじめ、身支度に携わってくれた侍女たち全員がため息を漏らしながら私のことを見つめている。
「これほどお美しい花嫁を見たことはございませんわ」
「本当に、目が眩むほどお美しゅうございます、エリッサ様」
口々にそんなことを言ってくれる侍女たちに照れながらお礼を言っていると、さっきまで穴があくほど私を見つめていたミハがそばにやって来た。
「エリッサお嬢様、セルウィン公爵閣下がお見えになりました」
「そ、そう。……お通しして」
途端に心臓の音が大きくなり、痛いほど激しく脈打ちはじめる。私の体は正直だ。
そして。
控え室に現れたクロード様の姿を見た途端、呼吸が止まった。真っ白な衣装に身を包みこちらへと歩み寄ってくる彼は、めまいがするほどに素敵だった。その純白の衣装には、私の瞳と同じ金色の刺繍が施されており、そのことが一層私の胸を滾らせた。
クロード様は薄く唇を開き、片時も目を逸らすことなく私を見つめながら、半ば呆然とした顔でゆっくりと私の元へとやって来た。……再会のご挨拶をしたいし、他にも伝えたいことはたくさんあるのだけれど、胸がいっぱいで言葉が出ない。
しばらく見つめ合った後、クロード様が私の頬にそっと片手で触れた。その部分が痺れたようにジンと熱くなる。
「……心臓が持たない」
「……えっ?」
クロード様は私を見つめたまま、噛みしめるように囁いた。
「これほど美しい人が、今日から私の妻になってくれるのか。私はこれまで女性に対して、こんな想いを抱いたこともなければ、こんな風に心をかき乱されたこともない」
「……ク、クロードさま……」
私の頬を親指で優しく擦るように撫でながら、クロード様が少し掠れた声で言う。
「こうして君と再会するたびに、自分の想いが強くなっているのを自覚してきたが……今日は別格だ。エリッサ、君が愛おしくてならない。生涯大切にする。……私についてきてくれるか」
「……っ、」
真摯な愛の告白に、胸がいっぱいになる。瞳を潤ませながら、私は震える声で彼の気持ちに応えた。
「もちろんでございます、クロード様。命の限り、おそばでお支えしてまいります。……わ、私も……、あなた様を、お慕い申し上げております……」
そんな言葉を伝えるだけで顔が真っ赤になり、今にも倒れてしまいそうだった。クロード様はこれまで見たことがないほど優しく嬉しそうに微笑み、私の手を取った。
「ありがとう。……行こうか」
会場には父でなく、クロード様と入場したいと希望したのは私だった。どちらでもいいとのことだったし、父も私には別に思い入れもないのだから構わないだろう。どうせなら好きな人と歩きたかった。
ただでさえ夢見心地になっている私は、大聖堂の広大さと集まってくれている人々の人数に圧倒され、ますます恍惚となった。緊張は最高潮だ。雲の上を歩いているようなおぼつかない感覚に、私は思わずクロード様の腕をしっかりと握りしめた。彼は私の方を見て少し微笑むと、もう片方の手を私の上に重ねてくれた。
互いの指に指輪をはめると、クロード様が私の頬に手を添え、優しく顎を持ち上げた。もう彼以外何も見えない。私は最後までその美しいアイスブルーの瞳を見つめ、ゆっくりと目を閉じた。
大聖堂に響き渡る割れんばかりの拍手の中で、人生で初めての口づけを交わす。クロード様は私の腰を片手でしっかりと抱き、その温かさと熱い想いを唇から伝えてくれた。