【SS投稿中】殿下、私を解放していただきます。〜 妹を選んだ王太子に婚約破棄された有能令嬢の、その後の人生 〜

53. 教育改革

 セルウィン公爵領に戻った私は、真っ先にキャロルに謁見申し込みの書簡を出した。アルヴィン様のことも問い質し説教したかったし、お腹の子のことを含め、様子を探っておきたかった。けれど、数日後王城より届いた書簡にはこう書かれてあった。

“王妃陛下におかれましては、ただ今心身共に非常に繊細な状態にあり、御子の健やかなる出産のためにも、現在は謁見をお受けになることを停止してございます”

(……王城への出入りを禁止と言っていたかと思えば、私が国外にいる間は何度も登城を求めてきていて、今度はまた謁見不可? ……どうなっているのかしら)

 本当に体調が芳しくないのだろうか。それとも何か別の事情が……?
 考えれば考えるほど不安が膨らむので、私は仕方なく一旦キャロルのことを頭から切り離した。謁見を拒否された以上、ここで一人で考えていても仕方がない。
 私は新しい学園の設立計画に没頭することにした。

 新たに公爵領内に造る学園は、二種類考えていた。交換留学を積極的に行う富裕層向けの学園と、経済的な余裕が少ない平民向けの学園。多くの民に学ぶ機会を与え、領民全体の学力を底上げし、個々の将来の選択肢を広げる。これも他国を視察して感銘を受けた教育方針の導入だった。クロード様も賛同し許可してくださり、私は両校の設立を進めるために日々奮闘した。
 富裕層向けの学園の交換留学制度を支持してくださる近隣国の学園経営者たちとは、頻繁に交流会を開くようになった。人づてに話は徐々に広まり、私は数ヶ所の協定校を確保することができた。何せ初めての試み。手抜かりがないかと頭を悩ませながら、綿密に留学制度を作っていった。

 そんな中で、ある日思わぬところから声がかかった。
 我が国の東側にあるリウエ王国よりも、さらに東方にある小国、ラヤド王国。我が国とはいまだ正式な同盟を結んではおらず、関わりはさほど濃くない。けれど私はフルヴィオ陛下の婚約者であった頃から、東側に外遊する際に何度か立ち寄っていたし、リウエ王国などで行われる大規模な式典に参加した際にも、かの国の王族の方々と少し挨拶を交わしたことはあった。
 その小国の国王陛下が、なんとこの交換留学制度に興味を示され、ぜひ話を聞きたいと仰っているとのことなのだ。私は驚き、すぐさまクロード様に相談した。

「一国の国王陛下と接触するとなれば、さすがに我が領内だけで勝手に事を進めるわけにはいかないな。陛下に謁見を申し込み、お伺いを立てねば」
「そうですわよね……。承知しました」

 私がまだフルヴィオ陛下の婚約者であった頃、ラヤド王国の外務大臣と会話を交わした時に、「王妃陛下にご即位された暁には、ぜひとも友好条約を」と仰っていただいたこともあった。関係性は悪くないため、これを機にぜひとも王国同士の結びつきを強めたいところだ。
 早速フルヴィオ陛下に宛てた書簡を作成し送ったところ、返ってきた書簡には、「王妃について非常に慎重かつ繊細な内容の情報を伝えたいため、謁見にはひとまずセルウィン公爵夫人が一人で来るように」と記してあった。

「……王妃陛下の状態がよろしくない、ということでしょうか」

 クロード様にそう問うと、彼は淡々とした表情で言った。

「あるいは私に会いたくないのだろう」
「まさか、そのような……」
「いや、昔からそうなのだ。陛下は私との対話を避けるし、極力目も合わせようとなさらない」
「……」

(クロード様のこと、怖がってるのかしら。気の弱い方だから……。前公爵にも怯えきっていたしね)

 国王夫妻の結婚式でのフルヴィオ陛下の様子を思い出していると、クロード様が気遣わしげに私を見る。

「どうする? エリッサ。一人で大丈夫か。心細いようなら、再度陛下に書簡を送り私の同席を許可していただくよう頼むが」
「いえ、問題ございません。一人で大丈夫ですわ。陛下には、過去に私がラヤド王国のどなたとどのようなやり取りをしてきたかを今一度全て報告し、今回セルウィン公爵領で設立を進めている学園の制度に国王陛下がご興味を示してくださったこと、今後円滑に話を進めるためにも、一度王城にラヤド王国王家の方々をお招きし、友好条約の締結に向けて前向きなお話ができるよう懇親の場を設けるのはどうかと提案してみますわ」

 クロード様はまじまじと私を見つめて言った。

「君は本当に頼もしいな」




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