かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

第九章/生存確認 or 恋愛結婚



久我透は悩みの中にいた。

母親の言葉が重く、というか鋭く胸に刺さっていたのだ。
「ニューヨークなんかに行ったら、どうやってあなたの生存確認をするのよ?」

世界一の国際都市を “なんか” 呼ばわりするのもなかなかだが、生存確認とまで言われてしまうとは。
ニューヨークで世界を相手にビジネスを展開したい、という意思には揺るぎがなかった。
だが両親は、親心でそこに頑として立ちはだかった。

昔から没頭すると寝食を忘れてしまうのだ。家族には「ブレーキが無い」と言われてきた。
運転に例えると、常に安全を心がける兄や、ドライブを楽しむ弟とそこが違うところかもしれない。

「結婚しなさい。誰か一緒に住んでくれる人がいないと心配でしょうがない」という母の意見はもっともなのだが。

「通いのハウスキーパーでも頼めばいいだろ」

「しょせん他人がそこまで親身になってくれるわけないでしょ。死んでるのを発見してくれるかもしれないけど」

とにかくはっきりものを言う母親なのだ。本人曰く、そうでなければ男三人兄弟の母親なんてやってられないとのことだが。
< 112 / 123 >

この作品をシェア

pagetop