かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜
第四章/第三の男


スマホが新着メッセージを告げたのは、その会話から一週間ほどたったある日の午後だった。
確認してみると、登録のない名前が表示されていた。櫂さんだ。

【桜帆さん、はじめまして久我櫂です。三日前にニューヨークに到着しました。
ようやく時差ボケも直ってきて、といってもロンドンとの時差は五時間くらいですが】

透さん同様、海外育ちでも日本語は完璧に使いこなせるようで、ひとまずほっとした。
さてなんて返そうか。わたしの名字ももう “久我” なのだ。フルネームで名乗り合うこともないだろう。

【櫂さん、はじめまして桜帆です。到着お疲れさまでした。ちなみにお住まいはどのあたりでしょう?】

すぐにミッドタウン・ウエストだと返信が返ってきた。ということは、わたしたちの住むアパートの徒歩圏内だ。

櫂さんは日本でいうところのマンスリーマンションのような、家具や生活用品が一式揃っている短期滞在型のアパートを借りているという。

【よかったら一度食事でもいかがですか?
兄は「お前にかまってる暇はない」とつれないので】

誘いは如才ないながら、末っ子気質が顔をのぞかせる。
< 38 / 123 >

この作品をシェア

pagetop