かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

第五章/ピックルボール



兄弟そろって心臓に悪い…
いきなり結婚を申し込んでくる兄に(してしまった)、告白じみた台詞をぶつけてくる弟(もちろん応えるわけにはいかない)。

「ごめんなさい、今の言葉は聞かなかったことにするから」とそそくさと別れたきたもの。

櫂さんは何も言わずにわたしを見送っていた。
自分の投げこんだ言葉がどんな波紋を生むかわかっているのに、あえて———

どうしよう…
このままで終わるとは思えなかった。
彼は親戚なのだ。それも夫の弟という近しい間柄だ。
なんてことをしてくれたんだろう。せっかく異国での新生活にも少しずつ慣れてきたのに…

救いがあるとすれば、櫂さんのいっていることが真実を含んでいるならば、透さんがわたしと結婚した理由の補足になるということ。
いくら親に結婚を急かされたから、遠縁だから、条件に叶うからといっても、透さんが意に沿わない結婚をするとは思えなかった。

“本質的な部分” という言葉を櫂さんは使った。
透さんがわたしという人間の内面を見込んでくれたのだとしたら———心がない形だけの結婚より、ずっと嬉しいに決まってる。
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