一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
これが私の旦那様



青い瞳に白い肌。
まるで人形みたいな男の子が私の初恋の相手。






「はぁ、次はクリスマスかぁ」


開店前。
学生アルバイトの吉田さんがケーキのショーケースを拭きながら、まるで世界滅亡予言が近づいてきているかのようにぼやいた。
今日は十一月一日。
昨日までハロウィン一色だったのが、一日経てばもうクリスマスの装飾や商品が並び始める。
百貨店で洋菓子店の店舗スタッフとして働いていると、季節の巡りが早く感じる。クリスマスが終われば急いで新年の商品に総入れ替えで、それが過ぎればバレンタイン。そして、春に向けての新作が届く。
その中でも、特にクリスマスは特別だ。ここは都心の百貨店で、焼き菓子とケーキなどの生菓子の売り場が併設しているうちの会社の中でも大きい売り場。それだけ来客数も多く、毎年ケーキが飛ぶように売れていくし、ギフトの焼き菓子セットをひたすらラッピングする戦いだ。
終わった後は燃え尽きたマッチみたいに精魂なくなっている。でも、次は正月が来る。英気を養う暇がない冬のイベントに吉田さんが嘆く気持ちもわかる。
それでも、私はお菓子が売れていくのを見ると嬉しい。働いている身としてはうちの店が一番おいしいと思っている。
「そうだねぇ。今年はどれくらい混むかなぁ」
昨年のことを思い起こしながら言えば、ガラスケースを挟んだ向かい側から吉田さんがむぅっと頬を膨らませる。
「そうじゃなくて。私このままだとクリぼっちですよ~」
「くりぼっち?あー、なるほど」
一瞬何かのキャラかと思った。
といえば、また世間との認識のズレが顕著になるので黙っておく。休みの日はほぼ引きこもりの私はいろいろと世間のことに疎い。
吉田さんは二十歳になったばかりで、いつも「彼氏ほしい」と言っていた。大きな瞳にいつも上を向いた長い睫毛、ゆるやかな丸みのあるフェイスラインが同性から見ても可愛く思える。男性から声をかけられることもあるだろうと言えば、一定以上の容姿でないと恋愛対象として見られないと答えが返ってきた。確かに、誰でもかれでも付き合えればいいというのは私も違う気がする。
クリスマスにひとりもいいと思うけどなぁ。
好きな物食べて好きなことができるし。あ、でも、それクリスマスでなくてもできるか。
と、内心思っていたら、ジロリと吉田さんがこちらを見てくるから心の中が見透かされたのかと小さく身構えた。
「店長はいいですよね。結婚して旦那さんいるんだもん」
「旦那……」
「こら、沙織ちゃん。店長の旦那さんは今海外出張。離れ離れなんだからね」
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