秘めた恋は、焔よりも深く。
プロローグ
心を動かされる恋なんて、もうしない。
そう決めてから、どれくらいの時間が経ったんだろう。
誰かを本気で想ったり、
夜に寄り添う温もりを欲しがったり、
そんな自分に戻るつもりはなかった。
美咲はそれなりに恋愛をしてきたけれど、決して深い間柄にはならなかった。
どこかで、心を開くことに恐れを抱いていたのかもしれない。
いつも一歩引いて、相手に本当の自分を見せることなく、
浅い関係で終わらせていた。
そんな関係すら、数年前からない。
むしろ、このまま一人でいいかもって思っていた。
独りでいる方が、何も求められない分だけ楽だと感じることもあった。
だけど…
「……寒いだろ。これ、着とけ」
焚き火の向こうで、無造作に差し出された上着。
それを手渡してきたのは、社長の第一秘書、黒瀬龍之介だった。
仕事では一分の隙もなくて、近寄りがたくて、
社内では“冷徹”とまで囁かれる人。
私もずっと、必要最低限のやりとりしか交わしてこなかった。
けれどこの夜だけは、
彼の声がすぐ隣で響く。
低くて、穏やかで、そして妙に優しい声が。
「……こうしてると、君をこのまま連れて帰りたくなる」
声色はいつもと変わらないのに、
その言葉だけが妙に熱を帯びていて、
心の奥を、焚き火よりも強く、静かに揺さぶってくる。
気づいてしまった。
私はたぶん、
また恋をしようとしている。
相手は、社内でもっとも冷徹で、
……そして、いちばん甘い男。
そう決めてから、どれくらいの時間が経ったんだろう。
誰かを本気で想ったり、
夜に寄り添う温もりを欲しがったり、
そんな自分に戻るつもりはなかった。
美咲はそれなりに恋愛をしてきたけれど、決して深い間柄にはならなかった。
どこかで、心を開くことに恐れを抱いていたのかもしれない。
いつも一歩引いて、相手に本当の自分を見せることなく、
浅い関係で終わらせていた。
そんな関係すら、数年前からない。
むしろ、このまま一人でいいかもって思っていた。
独りでいる方が、何も求められない分だけ楽だと感じることもあった。
だけど…
「……寒いだろ。これ、着とけ」
焚き火の向こうで、無造作に差し出された上着。
それを手渡してきたのは、社長の第一秘書、黒瀬龍之介だった。
仕事では一分の隙もなくて、近寄りがたくて、
社内では“冷徹”とまで囁かれる人。
私もずっと、必要最低限のやりとりしか交わしてこなかった。
けれどこの夜だけは、
彼の声がすぐ隣で響く。
低くて、穏やかで、そして妙に優しい声が。
「……こうしてると、君をこのまま連れて帰りたくなる」
声色はいつもと変わらないのに、
その言葉だけが妙に熱を帯びていて、
心の奥を、焚き火よりも強く、静かに揺さぶってくる。
気づいてしまった。
私はたぶん、
また恋をしようとしている。
相手は、社内でもっとも冷徹で、
……そして、いちばん甘い男。
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