秘めた恋は、焔よりも深く。
独占欲の始まり
火曜も水曜も、龍之介のスケジュールは会議と外回りで埋め尽くされていた。
夜、ようやくスマートフォンを開けば、美咲からの短い返信が並んでいる。
『お疲れさまです』『無理しないでくださいね』
やさしいが、どこか距離のある言葉。
苛立ちを押し殺しながらも、龍之介は毎晩「会いたい」「声が聞きたい」とメッセージを送り続けていた。
それでも、肝心の美咲の気持ちは、まだ聞けていない。
そんな折、滝沢ホールディングスの社長室で。
ソファに腰をおろした真樹が、友人の変化を見逃すはずもなかった。
「……龍之介、お前、最近やけに落ち着きがないな」
「そう見えるか?」
「見える。いや、俺には分かるんだよ。昔からのお前を知っているからな。
心ここにあらず、ってやつだ」
「会えない時間が続いてる。……俺は毎日、彼女に想いを伝えているのに、
肝心の答えをまだ聞けていない」
「それで苛立っているんだな」
「……ああ。だが、美咲の気持ちを急かすこともできない。
焦れば、彼女はさらに心を閉ざすだろう」
真樹は腕を組み、静かに言葉を落とした。
「……女性は男より、慎重になるみたいだしな」
「答えを待つしかない時期ってのがある。
男としては歯がゆいが、彼女の心の変化を信じられるかどうかが試されるんだ」
龍之介は、真樹の言葉を噛みしめるように、静かに目を閉じた。
木曜の夕刻。
デスクに広がる資料を閉じると同時に、龍之介はスマートフォンを握りしめた。
真樹の言葉に納得したはずだった。女性は男より慎重になる。答えを待つしかない。
だが、待つだけではどうにも落ち着かないのが、彼の性分だった。
〈今夜こそは会いたい〉
心の声をそのまま打ち込むのは躊躇われたが、指先は止まらない。
〈今夜、食事に連れていきたい〉
送信ボタンを押したのは午後六時を少し回ったころ。
既読がつくのを、龍之介は食い入るように見つめた。
しかし、その頃。
美咲は都内のホテルで行われている茶道の先生の誕生日パーティーに参加していた。
淡い藤色の着物に身を包み、控室に置いたバッグの中に携帯電話を置きっぱなしにして。
それもそのはず、弟子のひとりとして受付や雑務を任されており、
笑顔で来客に頭を下げ、贈り物を受け取り、会場を行き来していた。
祝いの席に響く琴の音や、和菓子の甘やかな香り。
その中に立つ美咲は、仕事とはまた違う凛とした表情を浮かべていた。
一方の龍之介は、返事の来ない画面をにらみながら、低く息を吐いた。
「……また、既読すらつかないのか」
夜景に灯が広がるにつれ、彼の胸中は苛立ちと不安で締めつけられていく。
夜、ようやくスマートフォンを開けば、美咲からの短い返信が並んでいる。
『お疲れさまです』『無理しないでくださいね』
やさしいが、どこか距離のある言葉。
苛立ちを押し殺しながらも、龍之介は毎晩「会いたい」「声が聞きたい」とメッセージを送り続けていた。
それでも、肝心の美咲の気持ちは、まだ聞けていない。
そんな折、滝沢ホールディングスの社長室で。
ソファに腰をおろした真樹が、友人の変化を見逃すはずもなかった。
「……龍之介、お前、最近やけに落ち着きがないな」
「そう見えるか?」
「見える。いや、俺には分かるんだよ。昔からのお前を知っているからな。
心ここにあらず、ってやつだ」
「会えない時間が続いてる。……俺は毎日、彼女に想いを伝えているのに、
肝心の答えをまだ聞けていない」
「それで苛立っているんだな」
「……ああ。だが、美咲の気持ちを急かすこともできない。
焦れば、彼女はさらに心を閉ざすだろう」
真樹は腕を組み、静かに言葉を落とした。
「……女性は男より、慎重になるみたいだしな」
「答えを待つしかない時期ってのがある。
男としては歯がゆいが、彼女の心の変化を信じられるかどうかが試されるんだ」
龍之介は、真樹の言葉を噛みしめるように、静かに目を閉じた。
木曜の夕刻。
デスクに広がる資料を閉じると同時に、龍之介はスマートフォンを握りしめた。
真樹の言葉に納得したはずだった。女性は男より慎重になる。答えを待つしかない。
だが、待つだけではどうにも落ち着かないのが、彼の性分だった。
〈今夜こそは会いたい〉
心の声をそのまま打ち込むのは躊躇われたが、指先は止まらない。
〈今夜、食事に連れていきたい〉
送信ボタンを押したのは午後六時を少し回ったころ。
既読がつくのを、龍之介は食い入るように見つめた。
しかし、その頃。
美咲は都内のホテルで行われている茶道の先生の誕生日パーティーに参加していた。
淡い藤色の着物に身を包み、控室に置いたバッグの中に携帯電話を置きっぱなしにして。
それもそのはず、弟子のひとりとして受付や雑務を任されており、
笑顔で来客に頭を下げ、贈り物を受け取り、会場を行き来していた。
祝いの席に響く琴の音や、和菓子の甘やかな香り。
その中に立つ美咲は、仕事とはまた違う凛とした表情を浮かべていた。
一方の龍之介は、返事の来ない画面をにらみながら、低く息を吐いた。
「……また、既読すらつかないのか」
夜景に灯が広がるにつれ、彼の胸中は苛立ちと不安で締めつけられていく。