秘めた恋は、焔よりも深く。

愛があふれ出す

最終日の朝食は、テラスいっぱいに用意されていた。
熱々のスキレットにはこんがりと焼けた卵とソーセージ。彩り豊かな温野菜のサラダが添えられ、食卓を一層華やかにしている。
かごには焼き立てのクロワッサンが山盛りに並び、バターの香りがふわりと漂った。
さらに、フルーツの盛り合わせと、グラスに注がれた搾りたてのオレンジジュースが朝の光を受けてきらめいている。

「……おいしい」
美咲は半分ほど食べたところで、幸せそうに微笑みながらフォークを置いた。
「もう、おなかいっぱい」

対照的に、龍之介はゆったりとお代わりを重ね、満ち足りた顔で食後のナプキンをたたむ。
「やっぱり、ここの料理は最高だな」

美咲がカフェラテを口にしてほっと息をついたとき、コンシェルジュが静かに二人の前に姿を現した。

「おはようございます」
深々と一礼してから、落ち着いた声で告げる。
「本日のチェックアウトは午後四時でございます。都内までは、私どもの車でお送りいたします」

美咲と龍之介が顔を見合わせると、さらに続いた。
「今から二時間後に、最後の体験会場へご案内いたしますので、それまでごゆっくりお過ごしください」

爽やかな朝の風が吹き抜け、二人はその言葉に期待を込めて微笑み合った。

「体験会場ってことは、室内の体験かしら?」
美咲が首をかしげながらカフェラテを飲み干すと、その様子を確認した龍之介がすっと立ち上がった。

「どうだろうな」
そう言って彼は、美咲の手を取る。温もりに導かれるまま、二人は室内へと戻った。

ガラス戸が閉められる音がして、次の瞬間、龍之介の唇が美咲に落ちた。
「……さあ、ごゆっくり過ごそうか」
低く囁かれた声が耳元をくすぐり、美咲は思わず頬を熱くする。

「え?」と戸惑う間もなく、龍之介の腕にすくい上げられていた。
抱き上げられた体が宙に浮き、彼の胸にしっかりと支えられる。

「龍之介さん……!」
驚きと甘さが混じる声。
彼はその声に満足げに微笑み、ためらいなくベッドへと向かっていった。
時間がゆるやかに流れ、外の光さえ二人のためにあるようだった。
甘やかな声と吐息が重なり合い、濃厚な午前のひとときが、ただ愛で満ちていく。

二人はしばし寄り添ったまま、穏やかな沈黙に包まれていた。
だが、ふと時計に目をやると、針はすでに昼近くを指していた。
「……もう、起きなくちゃ」

名残惜しそうに身を起こす美咲に、龍之介は軽く腕を伸ばして引き寄せようとする。
「まだいいだろう」

低い声に抗いきれず、美咲は小さく笑った。
「だめ。チェックアウトの準備もしなくちゃ」

「そうだな。もうひと踏ん張りだな」

彼もベッドから抜け出し、シャツを整えると、きびきびと荷物の整理を手伝い始めた。
二人で声を掛け合いながら、畳んだ服や小物をボストンバッグへと収めていく。
支度が整い、部屋に静けさが戻ったちょうどそのとき。
ノックの音とともに、コンシェルジュが迎えに現れた。

「ご準備は整いましたでしょうか?」
深々と一礼する姿に、美咲と龍之介は顔を見合わせ、小さく笑みを交わした。

いよいよ、最後の体験へ。

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