秘めた恋は、焔よりも深く。
あふれる愛の行方
まだ外は薄明の青。
美咲は、隣で眠る龍之介の寝顔を見つめていた。
安心しきったような深い眠りに、ほんの少し名残惜しさが胸を刺す。
(……今日は帰ろう)
乾燥機にかけておいた衣服を取り出し、静かにボストンバッグへ詰める。
ペンを取り出し、短く一言。
『今日は自宅に戻ります』
テーブルの上にそのメモを残すと、音を立てぬよう玄関を開けた。
外気はまだ冷たく、早朝の都会の空気が頬を撫でる。
エントランスを抜けて歩道に出ると、ちょうど一台のタクシーが角を曲がってくる。
手を上げ、乗り込む。
ドアが閉じる音とともに、龍之介の寝顔が頭に浮かぶ。
あの人はまだ夢の中。
だからこそ、この静かな朝は自分だけのものだった。
タクシーを降りて、自宅マンションの玄関前に立つ。
鍵を差し込む手が、ほんの少しだけ震えていた。
昨日までの時間が夢のように濃く、そして甘かったから。
部屋に入ると、少し乾いた空気。
ベッドはきちんと整えられたまま、誰も眠っていない。
自分の気配しかない部屋は、どこか広すぎるように感じられる。
(あれだけ一緒にいたのに……
もう会いたい、なんて思ってる)
ボストンバッグを床に置き、窓を開ける。
ひんやりとした朝の風が流れ込み、カーテンが揺れた。
美咲はその場で深く息を吸い込み、胸いっぱいに空気を満たす。
日常に戻るための合図のように。
一つ一つの作業は日常そのものなのに、心の奥では龍之介の低い声や、腕の温もりが何度も甦る。
自分の心を見つめ直すために、携帯をサイレントモードに切り替えた。
仕事とはいえ、あまりにも多くのことがあった数日。
龍之介を好きだと気づき、いくつもの甘い瞬間を重ねて…愛されていると、何度も実感した。
それなのに、同棲の話は「引っ越してこい」の一言だけ。
私は……どうしたいのだろう。
とりあえず、ボストンバッグの中身を片付ける。
ふと手が止まり、気になって携帯を確認した。
けれど、そこに龍之介からの連絡はまだない。
まだ眠っているのだろうか…そう思いながらも、胸の奥に小さな寂しさが広がった。
私は、あの人のことばかりを考えてしまう。
あの愛に包まれて、すべてを委ねてしまいたい、溶けて消えてしまいたい、とさえ思う自分がいる。
でも…私はいったい何にためらっているのだろう。
しばらく考えた末に気づく。
ああ、もっと彼に私を知ってほしい。もっと彼のことを知りたい。
ただそれだけなのに。
それを口にしてもいいのか、聞いてもいいのか。
自分をさらけ出すことに、私はこんなにも躊躇している…。
何かしていなければ、不安に駆られてネガティブな思考でいっぱいになりそうで、美咲は冷蔵庫の中身を確認した。
冷たい空気が頬に触れ、かすかに残る野菜の匂いが現実に引き戻してくれる。
「少し歩こう」
散歩がてら、足りないものを買いに行こうと決めた。
美咲は、隣で眠る龍之介の寝顔を見つめていた。
安心しきったような深い眠りに、ほんの少し名残惜しさが胸を刺す。
(……今日は帰ろう)
乾燥機にかけておいた衣服を取り出し、静かにボストンバッグへ詰める。
ペンを取り出し、短く一言。
『今日は自宅に戻ります』
テーブルの上にそのメモを残すと、音を立てぬよう玄関を開けた。
外気はまだ冷たく、早朝の都会の空気が頬を撫でる。
エントランスを抜けて歩道に出ると、ちょうど一台のタクシーが角を曲がってくる。
手を上げ、乗り込む。
ドアが閉じる音とともに、龍之介の寝顔が頭に浮かぶ。
あの人はまだ夢の中。
だからこそ、この静かな朝は自分だけのものだった。
タクシーを降りて、自宅マンションの玄関前に立つ。
鍵を差し込む手が、ほんの少しだけ震えていた。
昨日までの時間が夢のように濃く、そして甘かったから。
部屋に入ると、少し乾いた空気。
ベッドはきちんと整えられたまま、誰も眠っていない。
自分の気配しかない部屋は、どこか広すぎるように感じられる。
(あれだけ一緒にいたのに……
もう会いたい、なんて思ってる)
ボストンバッグを床に置き、窓を開ける。
ひんやりとした朝の風が流れ込み、カーテンが揺れた。
美咲はその場で深く息を吸い込み、胸いっぱいに空気を満たす。
日常に戻るための合図のように。
一つ一つの作業は日常そのものなのに、心の奥では龍之介の低い声や、腕の温もりが何度も甦る。
自分の心を見つめ直すために、携帯をサイレントモードに切り替えた。
仕事とはいえ、あまりにも多くのことがあった数日。
龍之介を好きだと気づき、いくつもの甘い瞬間を重ねて…愛されていると、何度も実感した。
それなのに、同棲の話は「引っ越してこい」の一言だけ。
私は……どうしたいのだろう。
とりあえず、ボストンバッグの中身を片付ける。
ふと手が止まり、気になって携帯を確認した。
けれど、そこに龍之介からの連絡はまだない。
まだ眠っているのだろうか…そう思いながらも、胸の奥に小さな寂しさが広がった。
私は、あの人のことばかりを考えてしまう。
あの愛に包まれて、すべてを委ねてしまいたい、溶けて消えてしまいたい、とさえ思う自分がいる。
でも…私はいったい何にためらっているのだろう。
しばらく考えた末に気づく。
ああ、もっと彼に私を知ってほしい。もっと彼のことを知りたい。
ただそれだけなのに。
それを口にしてもいいのか、聞いてもいいのか。
自分をさらけ出すことに、私はこんなにも躊躇している…。
何かしていなければ、不安に駆られてネガティブな思考でいっぱいになりそうで、美咲は冷蔵庫の中身を確認した。
冷たい空気が頬に触れ、かすかに残る野菜の匂いが現実に引き戻してくれる。
「少し歩こう」
散歩がてら、足りないものを買いに行こうと決めた。