うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る

6

店内の小さな応接スペースに戻ると、社長――海龍はソファに腰かけ、スマホを片手にしていた。
顔を上げた彼の視線が、こちらをすっとなぞる。

ほんの一瞬。
けれど、その眼差しは鋭く、何かを見透かすようだった。

「……終わりました」

私がそう言って立ち止まると、社長は短く答えた。

「……よく似合ってますね」

たったそれだけ。
淡々とした声、表情にも特に変化はない。

私は――少しだけ、胸の奥が冷えた気がした。

(……やっぱり、慣れてるんだ)

たぶん、いつもこうやって。
誰かを連れてきて、服を選ばせて、褒めて――
社長くらいの人なら、それくらい普通なのかもしれない。

自惚れていたわけじゃない。
けれど、ほんの少しだけでも「特別扱い」された気がしていた自分が、なんだか恥ずかしかった。

「ありがとうございます。じゃあ……もう行きましょうか?」

言葉を整えて、感情を隠すように笑ってみせた。

だけど――
その瞬間、社長がスマホを置いて立ち上がる。

すれ違いざま、彼がぽつりと呟いた。

「……似合ってますよ」

「……え?」

振り返ったけれど、彼はもう歩き出していた。

凪はその背中を追いながら、不意に気づく。

(……私、なんで“どうせ反応ない”って決めつけたんだろう)
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