うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る

8

料理は、ひと皿ごとにまるでアートのようで。
味も、もちろん、文句のつけようなんてなかった。
夜景は息をのむほどきれいで、今にも映画のBGMが流れてきそうだった。

そして――
私の隣には、“社長”じゃなくて、“海龍くん”がいる。

完璧すぎて、ちょっと信じられない。

(……ほんと、すごいな)

レストランのスタッフも、慣れたように彼に頭を下げて。
なにもかもが「特別」で、「高級」で、「非日常」で。

たぶん、女の子なら誰でも憧れるような時間だと思う。

だけど――
なぜか、少しだけ、胸がチクリとした。

(……私には、似合わないな)

そう思ってしまった。

“すごいな”と思う反面、
どこか、置いていかれているような気持ちになる。

こんな世界に慣れている彼と、
スーパーで半額シールに飛びついて喜んでる自分。

同じテーブルに座ってるのに、
ふとした瞬間に、距離を感じてしまう。

夜景は本当にきれいだった。
でも――なんだろう。

(……海龍くんに、私の好きな景色も見てほしい)

山の中腹にある、静かな展望台。
電線もビルもない、真っ暗な中に、ぽつぽつと光る町の灯。

風の音しかしない、誰もいないあの場所。
そういう“きれい”も、あるんだって――

なぜだろう。
突然、そんな気持ちがわいてきた。

こんな世界に連れてきてくれる人に、
どうして、自分の好きな“静かな場所”を見せたくなったんだろう。

わからない。

でも、きっと――
私は、少しずつ、この人自身が、気になってきている。

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