うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る

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海龍Side

「で? あんた、いつ結婚すんの?」

――またかよ。

姉・小笠原 紗月、38歳。
仕事はできる、見た目も派手、美意識もやたら高い。
昔から何かと俺の人生に口を出してきた。

「結婚なんか、別にいいだろ」

そう答えても、姉はまったく引かない。

「いい年なんだから、真剣に考えなさい。……まさか、誰もいないとか?」

――うっとうしい。

思わず、口から出た。

「会社に気になるやつがいる」

「へぇ?」

興味津々な目を向けられて、引っ込みがつかなくなった。

仕方なく、ふと頭に浮かんだ名前を出した。

「広報部の……平泉 凪」

自分でも驚くくらい、感情のない口調だった。

可もなく不可もなく、俺と話すといつも緊張している。
地味な格好、落ち着いた声、自己主張もない。
特に印象に残るような女じゃない。
ただ――
「無害」で「ちょうどいい」と思った。

姉貴の美意識じゃ、絶対に“ナシ”だろう。
それで引いてくれれば、もうそれで終わる話だった。

──なのに。

数日後、姉から突然届いた一通のメッセージ。

> 『日曜、いつもの料亭に行って。相手はいい子だから、ちゃんと礼儀正しくするように』


勝手にお見合いをセッティングしてきた。

(はぁ?)と思ったが、まあどうせ流れで断ればいい。
そう思って、適当に向かった。

……まさか、あいつが来るとは。

凪が、そこにいた。

いつもの地味なスーツじゃなく、
淡い色のワンピースに髪を巻いて。
いつもより表情がやわらかい。

(……おい、姉貴……)

俺は席につきながら、あえて何も言わなかった。

凪が名前を名乗ったときも、黙っていた。
俺の名前を聞いて、明らかに戸惑っていたけど。

――さて。
目の前で不安そうに笑う彼女の仕草に、
ふいに、口元が緩んだ。

“無害”で“地味”な女。
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