うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る

9

北口のロータリーに、あの人が立っているのが見えた。
ジーンズに白いスニーカー。
…ちゃんとラフな格好で来てくれたみたい。

私は窓を下げて声をかけた。

「乗って!」

社長――じゃなかった、海龍くんは、一瞬驚いた顔をして私を見た。
そりゃそうだ。私が車を運転して迎えに来るなんて、まったく想像してなかったはず。

彼の目が、ランクルを見てさらに驚いてるのがわかる。
助手席のドアを開けた彼に、私は笑って言った。

「よかった、ちゃんとスニーカー履いてる」

「……お前、ランクル乗るのかよ」

「ふふ、ちょっと意外だった?」

「ちょっとどころじゃない」

その言い方が、なんだかおかしくて――
思わず私も笑ってしまった。

海龍くんが助手席にいるなんて、不思議。
ほんの少し前までは、ただの「怖い社長」だったのに。
今は、こうして自分の世界に連れて行こうとしてる。

(この景色、あの人に見せたい)
(この風、あの人にも感じてほしい)

そんなふうに思った自分の気持ちが、ちょっとくすぐったかった。

車を発進させると、彼がちらりと横を見てきた。

「運転、慣れてるな」

「大学のときに免許とってから、けっこう乗ってるよ」

「お前、そんなタイプだったか?」

「……なんか、決めつけてない?」

「悪い。けど、思ってたのと全然違う」

そう言って、海龍くんが少し笑った。
その笑顔が、まっすぐで、ちょっとだけ無防備で――
思わず心臓が跳ねた。

(…ずるい)

でも、今日だけは――
ほんの少しだけ、私が“主導権”を持っててもいいよね?
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