うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る
15
海龍Side
華やかなシャンデリアの下、流暢な英語と日本語が飛び交う。
ここに集まるのは、新しく我が社の一部となった海外法人の関係者と、各グループの経営陣。
当然、俺がこの場の中心に立つことになる。
形式的な挨拶を交わしながらも、どこか意識は宙に浮いていた。
この瞬間のために、何ヶ月も張り詰めてきた。
だけど、終わった今も、なぜか気持ちは晴れない。
凪に…会いたいな、と思った。
そのときだった。
会場の端、ゆっくりと歩いてくる人影が視界に入った。
遠くからでもわかる――それは、凪だった。
「……っ」
煌びやかなドレス。
いつもよりほんの少し高いヒール。
アップにまとめられた髪。
そのすべてが“彼女らしくて”、そしてどこまでも綺麗だった。
何も言えず、言葉が喉に詰まった。
誰かがまだ話しかけていたけれど、耳に入らなかった。
ゆっくりと、凪が近づいてくる。
「海龍くん」
その声に、少し緊張した自分がいた。
「…凪…?」
「うん。……お疲れさま」
そのひとことに、これまでの張り詰めた時間が、すっと解けていくようだった。
彼女がいるだけで、呼吸がしやすくなる。
この広い会場で、ただひとり、心の底から安心できる存在――それが、凪だった。
「海龍、おめでとう」
その声に振り返ると、すぐ隣に――姉さん。
あの凛として強い姉が、グラス片手ににっこりしていた。
「姉さん…なんでここに…?」
驚いている俺に、姉はすぐ隣に立つ凪に目をやった。
「私がお姉さんに、連れてきてと頼んだんです」
凪がそう言って、少しはにかんだように笑った。
「海龍の婚約者だと聞いたものでね。これは紹介される前に、自分で見ておかないとと思って」
――――?!
「婚約者…!?」
会場の空気が、少しざわついた。
「ちょ、ちょっと待って姉さん、それは…!」
「何か違うのかしら?」
「いや…違うわけじゃ……なくもない…か?」
どこかで頭が真っ白になりながらも、凪が隣にいるのが、ひどく自然で、心地よかった。
否定する理由も、必要も、なかった。
凪は少し照れたように小さく頭を下げる。
姉はふふっと笑って、
「いい子じゃない。あなたにはもったいないくらい。……大事にしなさいね」
と、ぽんと背中を叩いて去っていった。
残された俺と凪。
「な、なんでそんな話を姉さんに…」
「え、えっと…お姉さんに、“最近どうなの?”って聞かれて、つい…」
「……つい、って」
凪はちらりとこちらを見て、目をそらした。
そして、ほんの少しだけ口を尖らせながら、小さく呟いた。
「…だって……あんなキスしてきたから……仕返し」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
その言葉が頭の中でぐるぐると反響する。
“仕返し”――?
“あんなキス”―――!!
「…………っ!」
俺は思わずグラスを握り直した。
顔に出すな。冷静でいろ。
でも口元がどうしても緩むのを止められない。
「……じゃあ、俺も仕返しするか」
「え?」
「部屋を取っておくから、そこで待ってて」
海龍は凪を自分に引き寄せた。
華やかなシャンデリアの下、流暢な英語と日本語が飛び交う。
ここに集まるのは、新しく我が社の一部となった海外法人の関係者と、各グループの経営陣。
当然、俺がこの場の中心に立つことになる。
形式的な挨拶を交わしながらも、どこか意識は宙に浮いていた。
この瞬間のために、何ヶ月も張り詰めてきた。
だけど、終わった今も、なぜか気持ちは晴れない。
凪に…会いたいな、と思った。
そのときだった。
会場の端、ゆっくりと歩いてくる人影が視界に入った。
遠くからでもわかる――それは、凪だった。
「……っ」
煌びやかなドレス。
いつもよりほんの少し高いヒール。
アップにまとめられた髪。
そのすべてが“彼女らしくて”、そしてどこまでも綺麗だった。
何も言えず、言葉が喉に詰まった。
誰かがまだ話しかけていたけれど、耳に入らなかった。
ゆっくりと、凪が近づいてくる。
「海龍くん」
その声に、少し緊張した自分がいた。
「…凪…?」
「うん。……お疲れさま」
そのひとことに、これまでの張り詰めた時間が、すっと解けていくようだった。
彼女がいるだけで、呼吸がしやすくなる。
この広い会場で、ただひとり、心の底から安心できる存在――それが、凪だった。
「海龍、おめでとう」
その声に振り返ると、すぐ隣に――姉さん。
あの凛として強い姉が、グラス片手ににっこりしていた。
「姉さん…なんでここに…?」
驚いている俺に、姉はすぐ隣に立つ凪に目をやった。
「私がお姉さんに、連れてきてと頼んだんです」
凪がそう言って、少しはにかんだように笑った。
「海龍の婚約者だと聞いたものでね。これは紹介される前に、自分で見ておかないとと思って」
――――?!
「婚約者…!?」
会場の空気が、少しざわついた。
「ちょ、ちょっと待って姉さん、それは…!」
「何か違うのかしら?」
「いや…違うわけじゃ……なくもない…か?」
どこかで頭が真っ白になりながらも、凪が隣にいるのが、ひどく自然で、心地よかった。
否定する理由も、必要も、なかった。
凪は少し照れたように小さく頭を下げる。
姉はふふっと笑って、
「いい子じゃない。あなたにはもったいないくらい。……大事にしなさいね」
と、ぽんと背中を叩いて去っていった。
残された俺と凪。
「な、なんでそんな話を姉さんに…」
「え、えっと…お姉さんに、“最近どうなの?”って聞かれて、つい…」
「……つい、って」
凪はちらりとこちらを見て、目をそらした。
そして、ほんの少しだけ口を尖らせながら、小さく呟いた。
「…だって……あんなキスしてきたから……仕返し」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
その言葉が頭の中でぐるぐると反響する。
“仕返し”――?
“あんなキス”―――!!
「…………っ!」
俺は思わずグラスを握り直した。
顔に出すな。冷静でいろ。
でも口元がどうしても緩むのを止められない。
「……じゃあ、俺も仕返しするか」
「え?」
「部屋を取っておくから、そこで待ってて」
海龍は凪を自分に引き寄せた。