私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う

6

飲み会のお開きになって、みんなそれぞれの方向へと散っていく。

私はスマホを確認しながら歩き始めた。
終電まではまだ少し余裕がある。

「……高宮」

ふいに隣から声がして、顔を上げると、野田がいた。
なんとなく、同じ方向だとは思っていたけれど、声をかけられると、急に意識してしまう。


そのまま二人並んで、夜道を歩く。
人通りの少ない道に出ると、少し風が涼しかった。

沈黙が続いたあと、ふいに野田が言った。

「……もう少し、飲む?」

「え?」

「駅の近くに、小さいバーあるんだ。静かで、落ち着いてて、俺けっこう好きなんだけど……。どう?」

少し迷った。でも、気持ちはもう決まっていた。

「……うん、行ってみたい」

野田は、口元を少しゆるめて、うなずいた。


そのバーは、本当に小さくて、隠れ家みたいな店だった。
カウンター席に並んで座ると、ふわりと落ち着いたジャズが流れていた。

「いい雰囲気だね」
「だろ?」

二人ともウイスキーのソーダ割りを頼んだ。
グラスがカツンと当たる。

「……合コン、ほんとに普通だったの?」
私は、小さな声で聞いてみた。

野田はグラスを持ったまま、ほんの少し、私のほうに顔を向けた。

「うん。……普通っていうか、まあ……」
少し間を置いて、彼は言った。

「風花だったら、絶対あんなとこ来ないよな、って思った」

「え?」

「タイプじゃないでしょ。あの場にいた子たちも、会話のノリも」

私は一瞬、言葉が出なかった。

野田は、あの飲み会の間ずっと、そんなこと考えてたの……?

「……私のこと考えてたの?」

言ったあと、自分の言葉に驚いた。

(なに言ってるの、私……)

でも野田は、すっと視線を合わせてきた。

「何でだとおもう?」

グラスの氷がカラリと音を立てた。
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