私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う

8

「高宮、この書類なんだけど…」
「はい、分かりました」
風花はなるべく明るく、いつも通りに返事をする。

「あと、ここの書き方、どういうふうに進める感じ?」
「あ、それは…この見本、参考にしてください」

手元のファイルをすっと差し出して、必要最低限の言葉で説明する。
無意識のうちに、目を合わせるのを避けていた。

ふと、野田がぽつりとつぶやいた。

「……なに?俺、避けられてる?」

その声はほんの少しだけ低くて、寂しそうで、
まるで独り言みたいなのに、ちゃんと風花の胸に届いた。

「……そんなこと、ないよ」

即座に返したけれど、自分でもわかってる。
嘘が混じっている声だった。

「ふーん」

野田はそれ以上なにも言わずに書類に目を落としたけれど、
その横顔からは、いつもの“余裕”が見えなかった。
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