私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う

11

気がつくと、畳の匂いと、どこか懐かしい扇風機の音。

ぼんやり目を開けると、私のすぐ横に、野田がいた。
彼も眠っていたらしい。静かな寝息、ほどけた前髪。
そして、二人の上には、大きなタオルケットがふわりとかけられていた。

「……えっ」

思わず、小さく声が漏れた。
距離が、近い。
冗談じゃなく、あと少し顔を動かしたら、鼻が触れそうなくらい。

驚いて身じろぐと、その気配を感じたのか、野田が目を開けた。

「……あ。起こしちゃった?」

彼は瞬きをして、すぐに状況を察したようだった。
そして、少し口の端を上げて言う。

「寝顔、可愛かった」

「……っ、見てたの?」

「うん、でも寝落ちしそうになって、俺も寝た」
「そしたら、気づいたら並んでて…っていうか、このタオルケット、誰がかけたんだろな」

「……おばあちゃんかな」

私は頬を赤らめながらつぶやいた。
野田はそのまま横になったまま、私を見て笑った。

「こういうの、いいね」

「……なにが?」

「実家で昼寝とか、スイカ取りに行くとか、冷たい麦茶とか。全部」

そう言って、まっすぐに私を見る。

「それに――お前と一緒にいるの、やっぱり落ち着くんだよな」

その言葉に、胸の奥がふっとあたたかくなった。
私は何も言えず、ただ野田を見返して、ゆっくりと瞬きをした。

そして、気づかれないように、そっとタオルケットを引き寄せた。
野田との距離が、もう少しだけ、近くなった気がした。

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