私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う

13

野田の車が細い山道を抜けると、目の前に清らかな川と広い河原が広がっていた。

「うわぁ……すごい、きれい!」

木陰に透ける陽の光、耳に心地よいせせらぎ。
風花は思わず川の方へ駆け出していった。

「気持ちいいね!」

靴を脱いで、浅瀬に足をつける。
ひんやりとした水が火照った体に心地よい。
川底の石を踏みながら、風花は楽しそうにじゃぶじゃぶと進む。

「ねえ、あっちまで行ってみよ――」

そう言った瞬間、ツルッと石に足を取られて――

「わっ……!」

バシャッ。

川の中で、見事に尻もちをついてしまった。

「おい、大丈夫か!?」

野田が慌てて近づいてきて、スッと手を差し出してくれた。
その手の温かさと、当たり前みたいに差し出された自然な優しさに――

「……っ」

風花は、心臓がどくんと鳴るのを感じた。

「…ありがとう」

「ったく、子どもかよ。はしゃぎすぎ」

そう言いながらも、野田は笑っていた。

濡れた服、少し照れた自分。
それでも、笑い合えるこの時間が、なぜかとても特別に思えた。

ふと、野田がぽつりとつぶやく。

「ここ、俺が小さい頃から連れてこられた気に入ってる場所。高宮も好きかなと思って。」

その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
彼が大切にしてきた場所に、自分を連れてきてくれた――
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