私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う

15

野田の部屋は、思っていたよりずっと整っていて、清潔感があった。
生活感はあるけれど、ごちゃついていない。物の配置も、空間の使い方も、どこか几帳面な性格が表れていた。

「洗濯機、回しといた。乾燥までいれとくから」

「ありがとう…助かる」

「その間に、コーヒーでも飲む?」

そう言って野田がキッチンに立ち、手慣れた様子でドリップを始めた。
しばらくして、湯気の立つマグカップが二つ、ソファのローテーブルに置かれる。

風花は野田の隣に座り、そっとカップを手に取った。

「……いい匂い。すごいね、ちゃんとした道具使ってるんだ」

「インスタントだと味が薄いからな。慣れるとこっちが楽」

会話は穏やかだった。いつも通り、変に気を使うわけでも、よそよそしくなるわけでもない。
けれど、風花は自分の心臓の音がどこか遠くで響いているような感覚に、そっと唇を噛んだ。

――下着、つけてない。

Tシャツも短パンも濃い色で、透けることはないとはいえ、
何も着けずにそのまま野田の隣に座っているという事実が、じわじわと意識にのぼってくる。

「……大丈夫か?」

「え?」

「顔、赤い。熱でもあんのかと思って」

「な、なんでもない!コーヒーが熱いだけ!」

慌てて誤魔化すと、野田は一瞬、じっとこちらを見て――ふっと目を細めて笑った。

やっぱり、バレてる。
そう思うと、恥ずかしさでいっぱいになる。

けれど、野田の部屋の空気は、思っていたよりも、あたたかくて落ち着く場所だった。
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