私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う

16

次の日。
いつも通りアラームで目が覚めたはずなのに、体が重い。
寝不足……というより、思い出しすぎて眠れなかった。

――野田の手のひら。
――耳元でささやいた声。
――背中をなでられた感触。
――そして、あの真っ赤な顔で「ごめん」って言った表情。

「……うわ、思い出しちゃダメ……!」

布団の中で顔を覆う。
でも、止めようとしても止まらない。
あんなことされたら、意識するなっていうほうが無理だった。

シャワーを浴びて、メイクをして、服を選んで――。
何かをしていても、ふとした瞬間に野田の顔が浮かぶ。

(今日、顔合わせるよね……)

会社ではいつも通りの仕事が待っている。
でも、私は全然いつも通りじゃない。

(どんな顔して会えばいいの?
 気まずくならない?
 でも……またあの空気になったら、私……)

考えれば考えるほど、心がふわふわして落ち着かない。
けれどそれは、不安というより――甘い、緊張。

会社のビルが見えてきた。
胸の奥が、小さく鳴る。

(野田、今日、どんな顔で私のこと見るんだろう)

そう思ったとたん、また鼓動が早くなった。
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