私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う

17

食事の約束をした翌日。
ほんの少し、野田との関係が近づいた気がして、私の気分はどこか浮かれていた。

今日もまた、なにげないやりとりがあるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、デスクに向かっていると、課長が、みんなに聞こえるように言った。

「今日から、総務部にインターン生が一名入ります。皆さんご協力お願いいたします」

その直後だった。

「風花!」

聞きなれた声が廊下から響く。
振り向くと、そこには、スーツ姿で立っている青年――

「……駿介?」

「やっぱり!いた!」
にこっと笑うその顔は、数ヶ月前に東京で会ったときと変わらない。

「どうしてここに?」

「言ったろ?就活の前にインターン行くって。そしたら、ここのインターンの話があってさ。風花がいるって知って、絶対ここがいいって言ったんだ」

まるで同級生のような軽いノリで話す駿介に、まわりの社員たちがざわつきはじめる。

「え、知り合い?」「っていうか名前呼び捨て?」

「従兄弟なんです」
慌ててフォローを入れるが、どこか落ち着かない。

そこへ、偶然通りがかった野田が立ち止まった。

「……誰?」

低い声。

風花が振り返ると、野田がじっと駿介を見ていた。
目の奥に、かすかに冷たい光が宿っていた。

「……あっ、あの、従兄弟の駿介。インターンで今日から来るみたいで」

「へえ、従兄弟。風花と随分仲良さそうだな」

野田は一歩近づき、駿介と向き合う。

「野田です。風花の同期です。よろしく」

握手の手を差し出すが、その声色は明らかにさっきまでと違っていた。

駿介は一瞬だけ警戒したような目をして、けれどすぐ笑顔で返す。

「どうも。お世話になります。風花、頼りにしてるんで」

そう言って、にこりと笑ったその横顔に、私は内心、妙な胸騒ぎを感じていた。

(どうしよう……なんか、空気が……)

そして野田は、私を一瞬だけ見たあと、何も言わずにその場を離れていった。

その背中を、なぜだか追いかけたくなった。
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