私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う

3

土曜日。朝からいい天気だった。

私は前日、野田からもらった展示会のチケットをカバンに入れて、駅で瑠璃と待ち合わせた。

「風花、有言実行だね」

「せっかくチケットもらったし、ね?」

「ふーん?」

にこっと笑う瑠璃の視線が少し照れ臭く、私はわざとらしく大きなため息をついてみせる。

展示会の会場は、思っていたよりもずっと広かった。
企業ブースが並び、営業部が担当しているコーナーもいくつかある。照明も明るくて、人も多い。

「すご……普通に見応えあるじゃん」

「ね。資料もちゃんとしてる……」

私はパンフレットを開きながら、自然と会場内を見渡していた。
五十嵐先輩が、この中のどこかにいるはず。

スーツを着て、キリッとした顔で、来場者に丁寧に対応している姿を――私は、どこかで想像していた。

でも、どれだけ目を凝らしても、なかなか姿が見つからない。

「あ、もしかして今、探してる?」

「やめてよ……!」

顔が熱くなるのをごまかすように歩き出したけれど、内心は図星だった。

五十嵐先輩に会えたら、少しだけ話せたら――そんなことを、考えていた。

そんな風に、ただ一人を探して歩く私の姿を。

少し離れた場所からじっと見ている視線に、私はまだ気づいていなかった。
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