私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う

21★

「……風花」

野田の声が、いつもより低くて、甘い。
薄明かりのもと、並べられた布団の上に寝そべっていた。
緊張していたのは最初だけ。
私が「おやすみ」と小さく笑って言ったとたん、彼は私をぐっと抱き寄せた。

「……一緒に寝よう?」

その囁きに、私はただ頷いた。
野田の腕のなかに身体をあずける。
鼓動の早さが、どちらのものかもうわからない。

「……あの夜のこと、何度も思い出した」
「……私も」

顔を見合わせて、どちらからともなく唇が重なる。
そっと、ゆっくり。
でもすぐに、キスは深くなる。
彼の舌が私の唇の隙間を探しあてると、私は目を閉じてそのまま受け入れた。

「好きだよ、風花。……本当に、大好き」

その言葉の熱が、唇から喉、胸の奥へと降りていく。
触れる手が、私の背中をゆっくりなぞる。
浴衣越しの指先が、肌の感覚を刺激する。

「……風花、脱がせてもいい?」

そっと聞かれて、私は恥ずかしさと同じくらい、嬉しさが胸に広がっていく。
静かに頷くと、野田の手が慎重に、でも確かに帯に手をかけた。

ゆっくりとほどかれていく布。
肌が露わになっていくたび、彼の視線が優しくて、熱を帯びていて。

「……きれいだよ」

囁く声に、思わず目を伏せた私の頬を、彼の唇がそっとなぞった。
そのまま首筋、鎖骨、そして肩先へ。
キスのひとつひとつが、まるで印をつけるみたいに丁寧で。
私の身体が彼の手と唇に溶けていく。

「もっと……触れても、いい?」

私が何も言えずに彼を見つめると、野田はそっと微笑んだ。
「ありがとう」と小さく呟いて、さらに私の胸元へと唇を落とす。

その熱に、私は小さく息を呑む。
でも、不思議と怖くない。
好きな人に、大切にされている。
その感覚が、心と身体の奥にまでしみ込んでくる。

「風花……全部、俺のものにしたい」

耳元にささやかれたその言葉に、私は震えながら、静かに頷いた。

布団の中、熱を帯びた吐息と、触れあう指と指。
重ねた想いが、ゆっくりと、ふたりをひとつに近づけていく――
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