御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました

第1章 0日婚の申し込みととまどい

その日、私の運命が変わるなんて、誰も知らなかった。
私自身さえ──。

広告代理店で働く私は、いつものように企画書の締切に追われていた。

この業界、忙しさには慣れているつもりだったけど、人の入れ替わりも激しく、気づけば自分ひとりで複数の案件を抱えるのも日常茶飯事。

「朝倉、もう一件持てるか?」

上司がそう言って差し出してきたのは、見慣れないクライアントの分厚い資料だった。

「……勘弁してくださいよ。スケジュール、もう真っ赤です。」

「いやさ、神楽木ホールディングスの新規案件だ。大口だし、お前にしか任せられる人間がいないんだよ。」

神楽木──その名前に聞き覚えはあった。財界では名の通った老舗の企業グループ。その名前を冠する案件とあれば、断れるはずもなかった。

「分かりました……やります。」

そうして私は、神楽木ホールディングス系列の広告会社へ、打ち合わせのために足を運ぶことになった。
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