御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました

第3章 新居とぎこちない新生活

そして私は、律さんが住む高層マンションに引っ越すことになった。

「へえ……すごい。」

地上から見上げるその高さは、まるで雲に届きそうなほどで、首が痛くなるくらいだった。

「大したことないよ。親父の持ち物だからね。」

律さんはそう言いながらも、私の荷物を一つひとつ丁寧に運んでくれる。

新品の段ボールには「キッチン」「本」「服」なんて私の字が書いてあるのが、なんだか照れくさかった。

「とりあえず、リビングに置いておく?」

「うん、ありがとう。」

段ボールが積まれていくたびに、ここが“私の家”になっていくのを実感する。

「思ったよりも少ないね。」

「必要ないものは、捨てたから。」

そう。引っ越しの前に、元カレとの思い出の品も、古い服も、全部思いきって処分した。

これから始まる新しい生活に、余計な荷物はいらない。

もう後ろは見ないって、そう決めたから。
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