カンペキ王子は、少々独占欲強めです。

5

合宿が終わり、再び日常が戻ってきた。

けれど、それは“地獄のような授業スピード”の復活を意味していた。
花乃は、家でも学校でも、ずっと問題集とにらめっこ。

──どうしてみんな、こんな難しい内容をスラスラ解けるの?

焦れば焦るほど、ページをめくる手が止まる。

(……ほんとに、やばい)

そんなある日の放課後。

教室でひとりノートとにらめっこしていた花乃に、ひょいと声が降ってきた。

「なあ、花乃」

顔を上げると、そこには陸。
今日も相変わらず、隙のない清潔感。

「うち、来る?」

「──えっ」

「補習。蓮も家にいる日だから、勉強するなら手伝える」

「……えっと……」

戸惑う花乃に、陸はさらりと続けた。

「姉も蓮も家にいるし、大丈夫だよ。
変な空気になんてしない」

冗談っぽく笑う陸に、花乃はふいに目を伏せた。
変な意味で捉えてなんていない──でも、陸の家に行くことに、少しだけ心が揺れるのを感じたのだ。

「……あの」

思わず、言葉が口をついて出た。

「お願い、したい。ほんとに……授業についていけなくて。
できることなら、ちゃんと理解して追いつきたいから」

いつになく真剣な花乃の声に、陸の表情がふっと和らいだ。

「……そっか」

陸は、静かに微笑む。

「じゃあ決まり。金曜の放課後、駅前で待ち合わせな」

「うん」

短く返事をして、またノートに目を落とした花乃の耳元に、陸が小さく囁いた。

「俺の家で、ちゃんと教えてあげるから」

まるで、特別な約束を交わしたような声だった。
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