カンペキ王子は、少々独占欲強めです。

8

それから二人で、なんてことのない話をしていた。
すぐに別れがくるなんて、まるでなかったかのように──ただ、普通に笑い合った。

「なーにしてたの?」

ふいに、ドアの向こうから楓が顔を出した。
にやっと笑うその顔に、花乃はびくっと肩を揺らす。

でも──
陸も、花乃も、何も言わなかった。

その沈黙が、逆にすべてを語っていたのかもしれない。

楓は空気を読むように、それ以上は何も聞かず、「じゃあ、そろそろ送るよ」とだけ言った。

玄関までの短い距離。
玄関のドアの手前で、陸が立ち止まった。

「……花乃」

ふっと、目が合う。

「向こうでも、ちゃんと頑張るよ。……でもさ」

小さく息を吸って、陸は言った。

「ずっと想ってるから」

それだけ言って、陸は扉を開けた。

家の前で、ふたりは短く「じゃあね」とだけ交わした。

連絡先も──交換していない。

イギリスのどこに住むのかも知らない。手紙を送る場所さえも。

それでも──

「最後の思い出が、できてよかった」

花乃は小さく微笑んで、空を見上げた。

夏の夜。ひんやりとした風。
街灯の下、ひとりきりの帰り道に、ぽつんと残されたようだった。
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