カンペキ王子は、少々独占欲強めです。

9

ある日、桜井先生に授業の質問をしようと、講師控え室を訪ねたときのことだった。

「は、は、花乃ちゃん??!!」

突然、聞き覚えのある声がして、花乃は思わず足を止めた。

「久しぶりー! 楓だよ!」

振り向くと、そこには、陸の姉──楓がいた。

華奢でスタイル抜群、そして相変わらずの明るさで、控え室にまったく馴染まないほどの存在感を放っていた。

「一朗く…桜井先生の家の隣が湯田中家でね。よくここに来るんだ」

楓は、講師控え室の中にいる桜井一朗先生を親しげに指差した。

「陸と、会った?」

さらっと口にされた名前に、花乃の胸が一瞬締めつけられる。

「いえ……連絡先、交換していないので」

花乃が静かに答えると、楓は目をまん丸に見開いた。

「えーーーーー!?!? うそーーー!!!」

大きな声に、周囲の学生や先生たちがちらりとこちらを見たが、楓はお構いなしだ。

「連絡先交換してないって……なにそれ!? あのとき、あんなだったのに!?」

「……いや、別に…」

言いながらも、花乃の指先は少しだけ震えていた。

すると、桜井先生がやわらかい表情で、声をかけた。

「花乃さん……質問、あったんだよね?」

「は、はい……」

花乃は頷いたものの、楓とのやりとりのせいで、頭の中はぐるぐるしていた。
桜井先生の声が遠くに聞こえる。

「じゃあ、私は帰るね。一朗くん、またあとで一緒にご飯行こう!」

楓は嬉しそうに笑って手を振った。

そして、去り際、楓はくるりと振り返り、まるで何気ない話題のように言った。

「陸、この大学の医学部に通ってるんだよ」

その一言が、花乃の胸に深く突き刺さった。
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