カンペキ王子は、少々独占欲強めです。

10

高校の卒業が近づいたある日。
受験が終わって少し気が抜けた頃、和樹から告白された。

「ずっと、好きだった」
不器用な笑顔で、まっすぐに言ってくれたその言葉に、心は穏やかに波立った。

嬉しくないわけじゃなかった。
でも、心の奥底から湧き上がるような感情でもなかった。

ただ——断る理由が見つからなかった。

陸との思い出は、どこか遠くて、現実感がなかった。
もう会うこともないと思っていたし、名前を口にすることもなかった。
だから、そのまま和樹の言葉に頷いた。

それから、私たちは「恋人」として過ごすようになった。

映画に行って、カフェで笑い合って、街を歩いた。
優しかった。
ちゃんと大切にしてくれた。
どこにも文句のつけようがない、あたたかい恋人だった。

だけど。

それでも、最後の一線だけは、どうしても踏み出せなかった。

「花乃、うちに来る?」

そう言われるたびに、笑ってごまかしていた。

和樹が強引に迫ることは一度もなかったけれど、
私の中にはずっと、抵抗感が残っていた。

嫌いじゃない。好きだと思う。
でも、「身体を預ける」ということに、心がどうしても追いついていかなかった。

それがなぜなのか、自分でもわからなかった。
和樹に申し訳ない気持ちが、日に日に膨らんでいった。

まるで、自分の心だけが、どこか別の場所に取り残されているみたいだった。

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