カンペキ王子は、少々独占欲強めです。

11

花乃は、さっと袖で涙を拭ったけれど、その顔は明らかに揺れていた。
目元は赤く、唇は噛みしめた跡が残っている。
なにより、目を合わせようとしない。

「……花乃、こっち」

陸は、それだけ言って、迷いなく彼女の手を取った。
その指先は、昔よりもずっと大きくて、頼もしくて、温かかった。

誰もいない、午後の光が射す空き教室に、二人で入る。
扉を静かに閉めたあと、陸は振り返って言った。

「どうした?」

その声は、驚くほど優しくて、まっすぐだった。
久しぶりの再会なのに、どこかはしゃぐ様子もなく。
まるで、今の花乃の心を何よりも大事にするような、そんな声音だった。

花乃は、うつむいたまま何も言えなかった。
陸の視線が痛いほど真っ直ぐで、優しくて、胸の奥がかき乱された。

(どうして……こんなときに、陸なの……)

声に出そうとすると、喉の奥がぎゅっと詰まった。

「……誰かに、泣かされた?」

ぽつりと、陸が言った。
まるで感情を抑えているように、低く、でも確かな声音で。

花乃の肩が、わずかに震えた。
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