カンペキ王子は、少々独占欲強めです。

12

和樹のアパート。
花乃は、にんじんを薄く切りながら、今夜は肉じゃがにしようかと思っていた。

彼が好きだと言っていた味。少しでも優しい時間になればと、そう願っていた。

そのときだった。

「……がちゃっ」

突然、玄関のドアが開いた音がした。

「……えっ?」

そこに立っていたのは、見覚えのある――あの女の人だった。
大学で見た、和樹とキスをしていたあの人。

「ねえ……和樹、どういうこと……?」

彼女の目は赤く腫れ、頬には涙の跡があった。

和樹が慌てて立ち上がる。

「ちょっと待って、落ち着いて。話せばわかるから」

「わかるわけないでしょ……! どうしてこの人がここにいるの?!」

女は花乃を指差して叫んだ。

そして、震える声で言った。

「あなた……いったい和樹の、なんなの……?」

静まり返る部屋のなかで、その問いは重く響いた。

和樹は、花乃の方をちらりと見た。何かを言いかけて、でも言葉が出てこない。

その一瞬で、花乃はすべてを悟った。

――ああ、そうか。

私は、本命じゃなかった。

彼の中で、先にいたのはこの人で――
その隙間を、都合よく埋めるように、自分がいたんだ。

(……明らかに、私のほうが浮気相手)

胸が、ぎゅっと締めつけられた。

けれど、涙は出なかった。
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