カンペキ王子は、少々独占欲強めです。

14

数日後。
花乃は、紙袋を片手に陸の家の前に立っていた。

ピンポンを押すと、すぐに扉が開いた。

「……あれ、花乃?」

少しだけ驚いたように、でもすぐにふわっと笑みを浮かべる陸。

「この前のお礼……言いたくて。あのとき、助けてくれてありがとう」

そう言って、花乃は紙袋を差し出した。

「これ……ほんの気持ちだけど、クッキー…」

「……ほんとに?」
陸の目が、パッと明るくなる。

「わざわざ来てくれたの、すごく嬉しい。ありがと」

その笑顔に、花乃は胸がじんわりとあたたかくなる。

「よかったら、上がっていかない? ちょうど紅茶も淹れようとしてたんだ」

「じゃあ……少しだけ、おじゃましようかな」

リビングに通されると、以前と変わらぬ落ち着いた空間。
窓から柔らかい陽が差し込んでいた。

「座ってて。すぐ淹れるから」

そう言ってキッチンに向かう陸の背中。
どこかうきうきしているようで、鼻歌まで聞こえてくる。

――嬉しいんだろうな。
なんだかその無防備さに、少しだけ心が和らいだ。

「はい、どうぞ」

差し出されたマグカップは、ほんのり香るアールグレイ。

「これ、イギリスの?」

「そう。こっちだとちょっと高いけど、味がやっぱ違うんだよね」

嬉しそうに語る陸に、花乃も小さく笑う。

「美味しい……すごく、落ち着く」

「よかった」

そう言いながら、陸は花乃の隣に腰を下ろす。
でも、ソファの片隅――少しだけ距離をとって。

「……この前のこと。大丈夫だった?」

花乃は、少し黙って、それからゆっくり頷いた。

「うん。ちゃんと……終わらせるつもり」

「そっか」

陸はそれ以上、何も聞かなかった。
ただ、そっとカップを置き、まっすぐに花乃を見た。

「花乃が来てくれたこと。すごく……嬉しいよ。ちょっと待ってた。今日はお礼だけってこと、わかってる。俺、ちゃんと待つよ。待つから。」

花乃は一瞬、戸惑った。
でも――その優しい言葉に、心がじんと揺れた。

「……ありがと。湯田中」

その声に、陸はふっと微笑んで、紅茶に視線を落とした。

――花乃はまだ、心の整理の途中。
でもその隣で、陸はただ、笑ってくれていた。
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