カンペキ王子は、少々独占欲強めです。

16

いつもの桜井先生の授業が終わると、廊下に出たところで――見慣れた背中があった。

(湯田中…)

ラフな服装に、いつもよりちょっと無造作な髪。
教室まで来てくれたその姿に、思わず胸が高鳴る。

「湯田中…」

彼がこちらを向いて、優しく笑う。

「待ってた。今日も授業、受けてたんだなって思って」

その言葉に、頬が少し熱くなる。

ほんの少し勇気を出して――花乃は言った。

「……一緒に、帰ろう?」

その瞬間、陸の目がほんの一瞬見開いて、すぐにくしゃっと笑顔になる。

「……うん、もちろん」

そう答えてくれた声は、少しだけ照れているように聞こえた。

二人で並んで歩き出して、階段を下りる途中。

(今なら、言えるかもしれない)

ポケットの中でぎゅっと手を握って、花乃はふいに立ち止まった。

「ねえ、湯田中」

「ん?」

「……連絡先、まだ交換してなかったよね」

ちらっと彼の顔を見上げると、陸がきょとんとして、すぐに笑う。

「……たしかに。してない」

「……教えて、もらってもいい?」

小さな声で、けれどちゃんと目を見てそう言った。

その瞬間――陸の目がやわらかく細まって、穏やかな光を宿した。

「……うん。俺も、ずっと聞きたかった」

スマホを取り出し合いながら、ふたりの距離は、ほんの数センチだけ近づいた。

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