皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~

第5章 心のほころび

侍女が紅茶を淹れ、香り高い湯気が部屋に漂う。

カップを手にした私を見て、アレシオ殿下が優しく尋ねた。

「落ち着いた?」

「はい……」と頷くと、殿下はふっと微笑んだ。

「そうだよね。……落ち着いてないのは、俺の方か。」

茶目っ気のある声。けれど、どこか本気だった。

鼓動が聞こえるようだった。触れてもいないのに、胸が高鳴るのを感じる。

「……あの、私はそろそろ部屋に戻ります。」

そう言って椅子から立ち上がった瞬間、アレシオ殿下が私の腕をそっと掴んだ。

「もう少しだけ……もう少しだけ一緒にいてくれないだろうか。」

その声には、戸惑いと切なさと、私への想いがすべて込められていた。

胸が締めつけられる。

──このまま帰れない。

私は小さく頷いた。

ソファーで二人、ただ見つめ合っていた。

紅茶の香りも、蝋燭の灯りも、今はもう意識にない。
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