売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます

第8章 溺れるように、君だけを

「はあ? 正式に婚約?」

お父様の大きな声が執務室に響き渡る。まるでわざとらしく、わざとそうしているように。

「はいはい、アバーン伯爵と結婚ね」

お父様は両手を大げさに上げてみせた。

「……許していただけますか?」

恐る恐る尋ねる私に、お父様はふっと笑った。

「今さら許すも何もないだろ。結婚するために、クラディアを“アバーン伯爵”にしたんだからな。」

「えっ……」

するとお父様は、机の横に山積みにされた書類を指差した。

「見ろ、これ全部、アバーン伯爵宛のものだぞ?」

「これが……!?」

思わず私は一枚一枚、書類を手に取る。どれも、各地の領主や貴族、役所から届いたものだった。

「俺もてんてこ舞いだ。クライブ、お前も手伝え!」

「はい!」

その声に応えて、クライブはすっと椅子に腰を下ろし、迷いなくペンを走らせ始めた。

公爵家の長男としての手腕が、こんな時にまで発揮されるとは。

「あの……私が、やります。」
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