売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます

第9章 君を失うくらいなら

その数日後、私は突然、高熱に襲われた。

「はぁー……」

全身がだるくて、まるで鉛のように重かった。

起き上がることすらできない。

こんなこと、今まで一度もなかったのに──。

「……流行病でしょう。安静が必要です。」

枕元で診察を終えた医師が、静かにそう告げた。

その声が、妙に遠く聞こえる。

熱のせいだろうか、視界が揺れて焦点が合わなかった。

「栄養を摂って、ひたすら休むことです。ご家族の方も、感染には十分ご注意を。」

そう言って立ち上がった医師は、寝室の扉の前でクライブに何かを耳打ちした。

「……数日が山です。」

その一言だけが、妙に鮮明に聞こえた。

「えっ……」

クライブの声が震えていた。

「後は……奥様の体力次第です。」

扉が静かに閉まり、部屋に残されたのは、重たい沈黙と、私の荒い呼吸だけだった。

──クラディア……。

目を閉じながら、私は微かに彼の気配を感じた。
椅子を引く音。
布団の端をきゅっと握る手。
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