売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます

第6章 君を守る為に

クライブは休暇を取り、私と共に過ごす時間が増えた。

いつもより早く朝食を終えると、彼は書斎ではなく、私の隣のソファに座る。

「仕事は大丈夫なの?」

私は針を運びながら尋ねた。

「今までが忙しすぎたんだ。休暇を取るよ。」

穏やかな声。でも私は知っている。クライブは“この刺繍”の仕上がりを、心待ちにしているのだ。

ベッドカバーの中央に咲かせた一輪の薔薇──それに重なるように、二番目の花弁を刺していると、彼の視線を感じた。

「……もう、つぼみじゃないな。まるで咲きかけた本物の薔薇みたいだ。」

その言葉に、思わず顔を上げてしまう。

針を持つ手が汗ばんでいた。

「本物の薔薇は、咲いたら終わり。でもこれは、永遠に咲いているんだろ?」

クライブは私の作業を見守るように頷いた。

そして、そっと私の膝の上に置かれた布地に触れた。

「不思議だな。君が一針一針縫っただけなのに……この布を見ると、未来のことばかり考える。」

──未来。
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