蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜
第1章
第1話「あたり前の日々の終わり」
風は、冷たいのにどこか柔らかかった。
空の色は、藍と白のあわい。春の終わりを知らせる風が、教会の尖塔の鈴を静かに揺らしている。
ここは、王都から遠く離れた北の辺境。エルバの山あいにある、小さな修道院。
第二王女セレナ=ヴィアルは、もう何年もこの地で暮らしている。
「セレナ様、今日はお薬の量を半分にしてみましょうか」
穏やかな声が、開かれた窓から差し込む光と共に差し込んだ。
薬草係のシスター・ナリーが、陶器の器を持って立っている。
「はい。今日は……あまり、咳が出ていないので」
小さく微笑んだセレナは、やや色素の薄い長い髪を揺らしてベッドから身を起こした。
瞳は澄んだ灰青色。顔立ちは整っているが、どこか儚さを感じさせる印象を残す少女だった。
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