蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜

第3話「遠き記憶、近づく心」



 ――心が、少しずつあたたかくなっていく。


 それは、湯に浸かったときのような、ぬるくて優しい安堵だった。
 アグレイスと出会って以来、セレナの心に静かに灯ったその感覚は、次第に彼女の胸に居場所を作っていた。

 それでも、恋とはまだ名付けられない。
 ただ、隣にいてくれると安心する。自分の声を聞いてくれる。目をそらさない。
 それだけで、どこか嬉しくて、心がきゅうっとなる。



 今、セレナは王宮内の小さな離宮で、アグレイスとともに月を眺めていた。
 神獣の“番”となった者は、他の王族と一定の距離を保つのが習わしであり、彼女の住まいも別棟へと移されたのだ。

 初めは戸惑ったが、こうして静かな庭と広い空を得た今では、むしろ気が楽だった。


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