蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜

第5話「運命を超えて、共に歩む者たち」




 王宮の深奥にある戦略室。
 重厚な扉が軋む音とともに開くと、数名の老練な魔導士たちと、近衛将軍たちが一斉に視線を向けた。

 アグレイスが、セレナとともにその中へ歩を進める。

 会議室の空気は張り詰めていた。
 王都周辺の魔力の乱れ、北の辺境地で発見された“古代の封印”の緩み、そして西方から続く魔族の動き。

 それらが、断片ではなく、一本の線でつながり始めている。


 「どうやら、“予言の書”に記された時が、現実になろうとしているようです」


 そう語ったのは、〈銀の眼〉と呼ばれる老魔導士・ロズベルドだった。
 彼の透き通るような銀の瞳が、静かにセレナを見つめる。


 「銀の眼の継承者よ。貴女の存在が、封印の揺らぎと共鳴しているのは間違いありません。
 それは、今後起こる大いなる変革の“鍵”を貴女が握っているということです」


 セレナの心が静かに揺れる。


 (やはり私は、ただ“愛される者”ではなく、“選ばれた者”でもあるのだ……)


 それは喜びではなかった。
 彼女にとってそれは、個人としての自由をさらに奪っていくような“定め”の言葉でもあったから。

 アグレイスは、その微かな迷いを敏感に感じ取っていた。



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