蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜

第2話「星降る祭と、ふたりの距離」




 神殿の朝は、祭の日の特別な香りに包まれていた。
 香草と蜜の甘い香りが風に乗り、庭先では神官たちが忙しく飾り付けを進めている。

 セレナは、まだ見慣れない神殿の白い衣装に身を包みながら、胸をそっと押さえていた。


 (今日……私は、民の前に出るんだ)


 初めて、神殿の“番”として、民と向き合う日。

 祭の名は《星降りの宴》。
 年に一度、神の加護が最も強く降り注ぐとされる夜を祝う、古い伝統の祭だった。
 そしてその夜、神獣と番はともに祈りを捧げ、“星を呼ぶ”とされている。


 「セレナさま、お加減は如何ですか?」


 背後から声をかけてきたのは、いつもの従者・リュシエル。
 彼女の白銀の瞳が、いつもより少しやわらかく揺れていた。


 「はい。少しだけ……緊張してます。でも、大丈夫です」


 その答えに、リュシエルは小さく微笑む。


 「今日のあなたなら、大丈夫。誰よりも――神獣さまが、それを望んでおられますから」


 その言葉に、セレナの胸がふっと温かくなった。


 午前、祭の準備が進む中、セレナは神殿の庭に出て、民を迎える支度をしていた。
 訪れる人々の中には、子どもから老人まで、さまざまな姿があった。


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