蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜

第4話「花嫁としての新生活と、姉の影」


 王太子妃の間に朝日が差し込む。

 薄紅色のカーテン越しに、やわらかな陽が差し、セレナはゆっくりと目を覚ました。
 隣にあるあたたかな気配――アグレイスがまだ静かに眠っていることに、ほっと心がほどける。

 彼の寝顔を見つめながら、セレナは小さく微笑んだ。


(これから、ここが私の暮らす場所になるんだ)


 王太子妃としての日々が始まる。
 豪奢な部屋も、仕える侍女たちも、すべてが昨日までとは異なる日常。

 だが――変わらぬのは、彼のぬくもり。
 それがある限り、どんなことにも向き合える気がした。

 その日から、セレナは花嫁ではなく、「王妃としての務め」を本格的に学び始めた。

 午前中は礼儀と政治文書の読み方。
 午後は宮中での言葉遣いや、貴族婦人たちとの応対練習。

 長時間の座学に背筋はこわばり、慣れない気遣いに気疲れすることもしばしばだったが――


「セレナ様、習得が早くていらっしゃいますわ」

「民の声を真剣に聞かれているお姿、誠実でございます」


 周囲の者たちの評価は決して悪くなかった。

 ただ――


(……やっぱり、姉さまの姿は、どこか遠い)


 ふと、廊下の先に見えた。
 白薔薇のように気高く、美しい姉・リディアの後ろ姿。

 王宮に戻ってからというもの、リディアは常に礼儀正しく接してくれていた。
 ときに笑顔も見せる。形式通りのやさしさ。けれど、それ以上は――


(心が、読めない)


 あの人は、いま私のことをどう思っているのだろう。
 その日の夕刻、アグレイスは執務の合間を縫ってセレナの元を訪れた。



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