結婚願望ゼロのエリート心臓外科医に勢いでプロポーズしたら、なぜか溺愛夫になりました
プロローグ
『お互い好きにならないこと』
 それが夫と交わした約束だった。
 でも、一方的に破ってしまった。夫婦として共に時間を過ごすうち、彼を深く知る度に惹かれる気持ちを止められなくなった。

 この気持ちを彼に知られてはいけない。

 医師として医療の最前線に立ち、人の命を救い続けている夫。なにより仕事を優先する彼の邪魔にだけはなりたくなかった。それなのに。

「新郎役を引き受けたのも、こうして結婚したのも君だったからだ」

 なぜ彼はこちらを見つめながら、優しく髪を撫でているのだろう。

悠磨(ゆうま)さん?」

「俺たちは、夫婦だ」

 目を見開く鈴菜(すずな)に彼は言い聞かせるような声を出した。大きな掌が首元に移動し髪をかき分ける。耳のうしろを指先で撫でられ、鈴菜の背中にゾクリとした感覚が走った。

 後頭部を支えられ、整った顔がゆっくり近づいてくる。
 だめだと思うのに、動けなかった。

「……ん」

 鈴菜は目を閉じてそれを受け入れた。柔らかな彼の唇を感じるのは結婚式での誓いのキス以来。
 しかし、あのときと違って彼はすぐに離れようとしない。

「鈴菜……」
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